前回(7月)までのあらすじ

 

下書きは8月

 

 

 

第3傷 タンポポの綿とカキツバタの蕾

 

 

 

 

夢を、見るんだ。

 

小さい事の夢。

 

いつの頃なんだっけ。それすらぼんやりとしてて、頭の中が綿あめになったみたい。

 

甘くて優しくて、隣にはみーちゃんが居てくれて。

 

 

あぁ、幸せだなぁ。

 

ずっとこうしていたいなぁ。

 

いつまでもこの場所で生きていたいなぁ。

 

 

 

だからお願いだから

 

 

 

 

夢の中でくらい最後まで幸せでいさせてよ。

 

 

 

明るい。

 

ぼんやりした脳みそが最初に思い浮かべたのはその1言だった。

 

夢を見ていたからだろうか、寝起きなのに疲労が溜まってて凹む。

 

確かに表情に出づらいかもだけど、落ち込む時はしっかり落ち込むんだもん!

 

そう心の中で言い訳をしてしまうのは年頃の少年少女が通る道なので優しく見守ってあげて欲しい。

 

 

 

「それにしても」

 

 

 

「またあの夢(・・・)だ....。」

 

 

 

ここ数日彼女は同じ悪夢に悩まされていた。

 

内容はいつも決まって同じ。

 

どこまでも続く青空と走り続ける2人の少女。

 

微笑ましいその光景を、しーは外側から独りで眺めていた。

 

 

寂しさを纏う視線の先から幼い2人がやって来る。

 

 

「みーーーーーちゃぁぁぁん!!こっちこっち!!!」

 

 

あぁ、幸せだなぁ。

 

 

「たんぽぽの花言葉はねー、確か、愛の....かみ.....か........忘れちゃった!」

 

 

ずっとこうしていたいなぁ。

 

 

「うぅっ....だって花言葉ってとってもキレイで素敵だけど、なんでか全然覚えらんないんだよね...」

 

 

いつまでもこの場所で生きてたいなぁ。

 

 

だからお願いだから

 

 

夢の中でくらい最後まで幸せでいさせてよ。

 

 

そう思うのと同時に裂ける世界。

 

 

今ならわかる。分かるよ、みーちゃん。

 

 

「たんぽぽのもう1つの花言葉は“別離”なんだよね....」

 

 

そうやって夢は終わりを告げる。

 

 

夢の内容をこうも鮮明に思い出せるこの少女は、何度この悪夢を見続けてきたのだろうか。

 

原因は、たぶんわかってる。

 

「みーちゃん......。」

 

 

1週間前に偶然見かけた友人。

 

沈む夕日と共に、彼女の前から姿を消した友人。

 

 

「どうすればいいんだろう....」

 

溢れ出した瞳の奥は微かに震えていた。

 

 

気分の乗らないこんな日は読書に限る!

 

 

と言う事でしーは自宅の庭に出てきていた。

 

 

正確には、しーの様子を見かねた両親に気分転換でもして来たらどうかと言われたから、だが。

 

 

柔らかな風が頬をそっとなでていく。

 

 

頭上の太陽は今の自分を優しく包み込んでくれているように穏やかだった。

 

 

このまま、自分とみーちゃんの氷も溶かしてくれたらいいのに......。

 

 

どうしようもない感情を振り払うように目線を横に逸らすと、庭の隅に、テーブルとイスがぽつんと置いてあった。

 

 

まだ自分が幼かった頃、両親に無理を言って作ってもらった専用の読書スペース。

 

 

春、夏、秋、冬。

 

四季の匂いに包まれながら読書をするのが好きだった。

 

 

色んな事を知っていて、かしこくて素敵な女の子になりたくて、

 

みーちゃんみたいな女の子になりたかった。

 

 

絵本、花の図鑑、学級文庫、恋愛小説、話題になっている小説に推理小説。

 

本と過ごす時間が増え、時間の流れと共にその内容も変化をしていった。

 

特に、みーの母が亡くなって、彼女とのつながりを見失ってしまったあの日から、『花』に関するものは読んでいない。

 

 

そんな、嫌でも彼女の存在を意識してしまう『読書スペース』を前に、今のしーは何を感じるのだろうか。

 

 

渦中の少女は何も言わずそこへ近づき、テーブルに遺る想い出をなぞるように触れ、

 

 

華奢な肩を震わせ、涙を流していた。

 

 

 

 

溢れだしたのは記憶や思い出だけではなかった。

 

だって、思い出すだけでこんなにも温かい気持ちになれるのだから。

 

だって、そばに居るだけでなんだって出来そうな気持ちになれるのだから。

 

だって、離れ離れになるだけで、こんなにも苦しい気持ちになるのだから。

 

 

 

「わたし.....」

 

自覚した感情はもう騙せない。

 

「わたしっっ......!」

 

溢れだした想いは止められない。

 

 

「わたし.........は....................................」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経っただろうか。

 

 

さっきまで優しく包み込んでくれていた日は沈み、時刻は夜。

 

 

彼女はそこでようやく動き出した。

 

 

小さな顔の半分を独占しようかと言うほどの大きな丸眼鏡。

 

育ちの良さが伺える穏やかな私服と雰囲気。

 

そして、真っ赤に腫れ上がった目元。

 

 

 

いつもどこか自信のなさそうな、ひっそりとした少女の面影はどこにもなかった。

 

 

心で体を動かしているかの様な、変に前のめりな歩き方で自室に戻るしー。

 

 

ここが近隣や自宅の生活音が聞こえない空間であったなら、彼女のつぶやきまでハッキリと聞き取れていたかもしれない。

 

 

.........、これだ、と

 

 

 

 

 

バタンッ

 

ポチッ

 

カチカチ

 

あとがき

 

 

こんにちはノーマルどんころです。

 

数か月お待たせしましたリナリアの花言葉第3傷です。

 

このあたりから自分でも何が書きたいのか分からなくなってきてます。

 

ついでに自分も分からなくなってます。

 

それは嘘です。

 

 

 

 

 

正直プロット(もどきの)なかで一番構想がフワフワしてるのがこの第3傷だったので、ここさえ乗り切ってしまえばあとは楽、な、ハズ。

 

そもそも見切り発車で序章が生まれ、無理やり肉付けした物語ですし続きを書いただけ褒めて欲しいです褒めて。内容なんて読まないでほめて。

 

 

 

一応次が最終章(予定)なので最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。

 

ヒヨコ群たるもの自分で始めたことを途中で投げ出すことがあってはならないのだ(暴論)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕間

 

 

 

「たっだいまー!」

 

 

「今日も遅くなってごめんごめん」

 

 

「毎日晩御飯とか作らせて申し訳ないからさ、フルーツ買ってきたんだ! 後で食べてよ」

 

 

「ていうか今日も電気消してるし.......、何度言っても分ってくれんのかウチのいもうと、は..........って、みー.....?」

 

 

「どうしたっ!? おいっ!!みー!!!」

 

 

「と、とりあえず救急車!!救急車呼ばないと!!」

 

 

「しっかりしろみー!!!!」