【連載13】健常者スポーツと障がい者スポーツの違いって

右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
ノンフィクション小説「逆境のトリセツ」

健常者スポーツと障がい者スポーツの違いって

しばらくして、夫はアンプティサッカー日本代表候補として合宿に参加することになった。

「日本代表合宿ってどこであるの?」

「関東みたい」

「面白そうだから、私もついて行って良いかな?」

「え? 一緒に行くの?」

「ダメ? 一眼レフ持ってるしさ、カメラマンとか言い方あるじゃん」

「一応、協会には言ってみるけど」

かなり無理を言って、私も日本アンプティサッカー協会の日本代表強化合宿にカメラマンとして参加した。メキシコW杯を目指した強化合宿だったが、サッカー経験がない夫にとっては難しい内容だった。チームプレーの戦術は難しそうで、身体で覚えるようにがんばっていたことが印象的だった。

一番印象に残ったのは、クラッチを使った三十メートル走だった。このとき、誰よりも速く走ると宣言していたが、本当に誰よりも速い結果を出していた。全国の選手と一緒に汗をかき、苦しんだり、笑ったりする姿を見て、スポーツって本当にいいな、と感じたのだった。

メキシコW杯への切符を手に入れることはできなかったが、アンプティサッカーを競技として楽しみはじめたようだった。彼との将来については、とにかく考えて考えて、なかったことにすることも想像してみた。でも、アスリートとして「逃げる」という自分が許せず、人生の勝負をしてみることにした。

 

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本連載は、突然の事故、右足切断、記憶障害、脳機能の低下。途方もない試練を乗り越える裏には、小さな気づきと大きな愛情があった。夢を見つけ夢を掴む姿を描いた、試行錯誤の記録。※本記事は、 谷口正典氏・益村泉月珠氏の書籍『逆境のトリセツ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

https://life.gentosha-go.com/articles/-/13431