あの日…2年前のあの日

翔君のマンションを出て一番初めに向かったのが夜行バスの乗り場。
急いで出発寸前のチケットを買って乗り込んだ。
行き先なんてどこでもよかったんだ。
朝になって終点の乗り場は海に近い場所で。
寒くて…フラフラと歩いているうちに倒れちゃったみたいで…。

その時、僕を助けてくれたのが相葉ちゃん一家。
今では住む所からカイのお世話まで…ほんと、何から何までお世話になりっぱなし…

相葉ちゃんの隣に住み始めてようやく一ヶ月が経とうとしてた頃、だんだんと食欲が無くなり何も食べてないのに吐き気がする。あんなに大好きな相葉ちゃんのラーメンが食べられなくなっちゃって…
見かねた相葉ちゃんの父ちゃんに連れられて行った松潤の所。

妊娠してるって言われて…あぁ…あの時の…。
一度だけ翔君がとても酔って帰ってきた日があった。酔って間違ったんじゃ無く、意思を持って僕を女として抱いたんだ…。
僕の身体には確かに入り口 (出口?女の子のは入口だよね) はあるけど他の機能は備わってないのか…結局、ローションの類いは必要で…でもあの日の翔君はいつもの優しさはなかった…ただ、僕は痛い思いを逃すのに必死だった。
きっと…あの時の。だよね…

僕は、施設を出て住み込みでお世話になっていた頃、ある研究室で僕の体を隅から隅まで調べてもらった事がある。
本当は恥ずかしいし嫌だった。
でも…調べてもらうのに費用はかからず、その上、協力費の名目で結構な額の謝礼が貰えると聞いて…こんな僕を家族のように可愛がってくれる店長夫婦にせめてものお礼がしたくて…。

今思えば…調べてもらっていて良かった…
松岡先生は言ってた。
"妊娠は出来るよ。子供を産むことも可能だが…"
その先、なんて言っていたっけ?
あ、そうそう…産まれてくる赤ちゃんが僕みたいにならないかは…分からないって言ったのと、産後の体のケアを怠るな…だっけ?
真剣に聞いてなかったんだよな…だって、本当に自分が妊娠するなんて思ってなかったから。

カイが…僕のお腹に来てくれたと知った時、本当に嬉しかった…
こんな身体の自分が嫌いだった…
両親の幸せを壊したのは僕…
母さんを泣かして…心を破壊したのは僕…

でも…僕が嫌いな身体の中に、僕は…大好きな翔君の子供を身篭る事が出来た…
翔君が僕に残してくれたプレゼント…

この先、何があっても…僕は海斗を守って生きていく…

親に愛されず育った僕が、カイを愛情いっぱいに育ててあげる事は難しい事かもしれないけど…
でも僕は…きっと上手には言ってあげられないけど…

 "あいしているよ" 

精一杯の僕の声で
そう伝えてあげたいんだ…