病室に入ると、クマオは椅子に座って、夕食を食べていた。
「りこちゃーん」。
クマオはそう言うと、立ち上がって私をハグした。
私も、クマオの胸に顔をうずめた。
「クマオさん」。
私はうるうるした。この匂い。これが好き。
おでことおでこを合わせてしばらくじーっとした。クマオの目も少し赤くなっている。
「へへ」
「へへ」。
お互い少し照れて笑った。
「ごはん、おいしい?」
「どうしたらこんなまずく作れるんかと思うような味。ちょっと食べてみて」。
私も一口味見する。確かに。これは何味なんだろう。そんな味だ。
「じゃあこれ、どうぞ」。
私はそう言って、容器に詰めてきた簡単な野菜の炒めものと、煮物を出す。
「うわぁ。りこちゃん、作ってくれたん?こんな短時間で?」
「手早いのだけが取り柄やからさ」。
「おいしい」とパクパク食べるクマオを見ていると私は満たされた気分になる。
食事が終わるとクマオはベッドに寝ころぶ。
「クマオさん、足貸して。揉みたい」。
揉むのは、女の仕事だ。でも私は敢えてそれをしたかった。
「イタギモ~」。
「りこちゃん、指折れてしまうで」。
「大丈夫」。私だってマッサージできるのだ。
「気持ちよかったよ。軽くなった」。
クマオは私の手を取ってそう言う。
小1時間経っただろうか。私は女が来るのではと心配になってくる。
「帰る」。
クマオもちらっと時計を見る。
「そっか」。
私を1階のフロアーまで送りがてら、クマオは院内のローソンに入って行く。
「りこちゃんに」。
クマオはそう言って、私にいろいろお菓子やスイーツを買う。
「クマオさん、いいよいいよ」
「いいねん。オレはこれがしたいねん」。
「ありがとう」
「こっちこそありがとう」。
来てよかった。