その日に結果がわかることは、数週間前にクマオに伝えてはいたが、
きっと忘れているだろうなと思っていた。
結果は良性だったが、クマオと私の今の関係を考えると、わざわざ連絡する必要が
あるとは思えなかった。
その日、私は病院から帰宅するとスマフォをカバンに入れたまま、眠ってしまった。
気が付くと午後10時すぎ。スマフォを確認しようとして、カバンに入れっぱなしだったことに
気づいた。開くとクマオからの何件もの着信とライン。「りこ、どうした?結果どうだった?」
返信しようとしたその瞬間、クマオから着信。
出ると、「りこ~、うわぁぁぁぁぁぁ~」 クマオが泣いている声。
「どうしたの?」
「りこ、心配で心配で。電話しても出ないし、ラインも既読にならない。
家も真っ暗だし、オレずっと自転車でりこを探してた」。
「え?なんで?」
私は寝起きで頭がぼぉっとしていた。
「結果どうやった?」まだ嗚咽しながらクマオは言った。
「大丈夫。良性。クマオさんはもうそんなこと忘れてると思って連絡しなかった」。
「あほか!オレをなめるな!うわぁぁぁぁぁぁ」
「クマオさん、心配しなくていいよ」
「あほか、心配なもんは心配なんや!りこは、りこは、わかってないよ!ふわぁぁぁぁ」
これはいったい何なんだ。私は混乱した。
しばらくするとクマオは落ち着いた。
核心には触れなかったが、いろんなことを話してくれた。
最近の仕事の事、家族の事など。
私はふとクマオに尋ねた。「クマオさん、今どこにいるの?」
「○○公園。ブランコに座って自販機で買ったハイボール飲んでる」
「え~!そうなの?」
「うん、りこを探してたから」
「そうか。ごめん」
「さっき慌ててさ、スマフォ落としたら、ガラスひび入った」
「え~買ったばっかなのに」
こんなたわいもない会話。
いったいクマオは私のことをどう思っているんだろう。
尋ねたいことはいっぱいあった。でも今はいい。このままで。
久々の穏やかな会話。電話を切ったのは12時をまわってからだった。