サザエさん―面白い落ち(93)
捻じり鉢巻きは、刈り上げのお爺さんが、捻った鉢巻きを、しっかりと巻き付けて結んだ時、格好良いと言うんです。髪の毛が一本もない、ツルツルの禿げ頭では結べません、駄目です。
朝日文庫版17巻〔142頁〕・昭和32年
『バス停に、二人ともコートを着てお出かけのサザエさんとマスオさんが、並んでバスを待っています。サザエさんから少し離れた歩道に座りこんで、キセルでキザミタバコをのんでいる、ツルツル頭のハッピーを着たお爺さんがいます。ツルツル頭のお爺さんで、鼻からタバコの煙をフーツと吹き出すと、吸い口を上にし、火皿を下にしたキセルを、右手に持って、左手で支え、人差し指でキセルの筒をポンポンと叩き、火皿に詰まった灰をポイと落としています。その粋なタバコを吸う仕草を見ていたサザエさんが、「イナセナおじいさんね」と言うと、マスオさんが、「ああいう人はこれから少なくなるね」と感慨深げに言っています』
『おじいさんは、吸い終わると、キセルと、キザミタバコを入れる小道具を腰の帯に挿しこみ、スクット立ち上がりました。立ち上がると、グイッと背を伸ばし「どれぼつぼつ」と言いながら、何処からか取り出した手拭をクルルと捻り、手拭の両端を、両手で大きく引き伸ばし、頭の後ろに持って行きました。サザエさんとマスオさんは、その威勢のいいおじいさんを、にこやかに見ています』
『おじいさんは、「でかけるか」と格好をつけて、手拭を両手で引いて、捻じり鉢巻きにし頭に巻き付けようとしました。すると、手拭は、ツルツルと後頭部を滑り、更に、ツルツル頭の全体をすべりぬけました。おじいさんは、一つの結び目が出来た一本の紐のようになった手拭を、高々と持ち上げていました。その意外な展開にマスオさんとサザエさんは、目をまん丸に見開いて見ています』
『おじいさんは、格好悪いと思ったのか、真っ赤になり、手拭を両手に持ち、しょげかえっています。サザエさんもマスオさんも、お爺さんの恰好悪いところを見せられ、思わず恥ずかしくなり、赤面しました』
粋なおじいさんが、キセルでキザミタバコを喫っている姿を、小さい頃見ていました。
キセルの火皿に、指で丸めたキザミタバコを詰め、火をつけ、スパスパと吸い始める姿は、今も思い出します。
火鉢の傍に座り、吸い終わった、まだ火の残っている灰に、急いで、次のキザミタバコを丸めて詰めたキセルの火皿を寄せて、スパスパと吸うと、火鉢の灰の上に捨てられた火皿の灰の中に残っていた火種は、キセルの火皿の中の新しいキザミタバコに移ります。
スパスパとおいしそうな顔をして吹って、鼻から煙を噴き出します。
確かに、キセルでキザミタバコを喫っている姿は、子供の目に格好良く、大きくなったら俺もキセルでタバコを吸いたいなーと思ったことがあります。
こんなキセルのタバコは、大工や左官屋さんのお年寄りが、ふかしている姿は、イナセナものでした。
マスオさんとサザエさんが見た、ハッピーを着たおじさんが、歩道に座りこんでキセルでキザミタバコを吸っている姿は、粋に見えたのでしょう。
当のおじいさんも、格好良いと自負していたのでしょうか。
しかし、余りにもハゲ頭だったのが、悪かった。
このおじいさんは、髪の毛が全くないツルツルのハゲのおじいさんでした。
そんなおじいさんが、ねじり鉢巻きを、格好をつけて巻きつける、やり過ぎたので、まずかったようです。
捻った手拭が頭の上を滑ってしまって、ねじり鉢巻きは空振りに終わりました。
捻じり鉢巻きは、刈り上げのお爺さんが、捻った鉢巻きを、しっかりと巻き付けて結んだ時、格好良いと言うんです。