私は、黒幕に会う前に久美子と話した。
「久美子、あなたは行く?」
久美子は、首を振って言った。
「私は、ただ小野田を目の敵にしてただけだから、組織の事だって何も知らずにね。
だから、私には行く資格はない。
美紀の意志を継ぐのは、恵里だけよ」
私は、久美子の表情を見た後
「わかった。あなたの分まで私は戦ってくる」
久美子は、笑顔で頷いた。
久美子は、恵里を今日ほど尊敬した日はなかった。
本来なら、恵里の立場からしたら、組織の黒幕の姪という立場なのだから、自分も組織の一員なのではないか?もしくは、黒幕を知ってたんじゃないか?と普通は、聞くはずなのだが、恵里は一言も口にしなかった。
つまり、それだけ恵里が自分の事を信じてくれてるという証なのだから、それに加えて自分も叔父のところに来るか?という心の広さ、本当に凄いと思った。
私は、ついに小野田の隠れ家にやってきた。
そして、チャイムを鳴らすと小野田自ら出てきた。
私を見ると
「ほう。古波蔵恵里か。
懐かしいお客さんだな。
入りなさい。私一人だ」
そして、小野田は私を家に招き入れて居間に連れて行った後、玄関と窓の前に壁がおりた。
「古波蔵恵里、これで君とジックリ話しができるな。
私は、この日を15年待った。
君とずっと一対一で、話したいと思ってた。
君と、初めて会った日の事を覚えているかな?」
私は、頷いた。
今から15年前である。忘られるわけがない。
あの年は、所詮この世は弱肉強食というのを、頭の中で刻みつけられて、その中心にいたのが、小野田だったからだ。
まさか、灯台元暮らしとは、思っていなかった。
だから、驚愕するしかなかった。
小野田と初めて会ったのは、私・美紀・響子の三人で会ったのだ。
「君達が、新井教授が一目置く三人か。
君達は、何故看護婦になりたいのかな?」
美紀は言った。
「理想の医者、理想の医療を目指すためです」
「ほう。理想の医療か。なるほどさすがはあの国谷先生ですら、一目置くだけはある」
「国谷先生を、知っておられるんですか?」
「国谷先生を、知らない医者はもぐりと言っていいほどの有名人ですからね」
「君達は、何故看護婦になりたいのかな?」
恵里は言った。
「患者の心を、救うためです」
「患者の心を救うですか。
なるほど、素晴らしい理想ですね。
しかし、おそらく理想の医療を考えるよりも難しいことですよ」
「私は、そうは思いません。
人は、わかりあえれば必ずどんな患者の心でも救うことができる、そう思います」
「なるほど。君が、成長するのを楽しみにしてますよ」
響子を見て、「君は、三嶋教授の娘さんだね。
君は、何故医者ではなく看護婦を目指そうと思ったのかな?」
「私は私、父は父ですから。
それに、看護婦だからこそできることがあると思ったんです」
「なるほど。そうか。」
「三人共、よく勉強していってくれたまえ」
これが、小野田との最初の会話だった。
小野田は、懐かしむように言いながら
「 よく生きて私までたどり着いた。
君が、死ななくて本当に良かったよ」
小野田は、まるで別人のようだった。
あの、きつい口調で黙らせるというやり方でくると思ったのだが、そうしてこなかった。
小野田は、続けた。
「だが、本音を言えば真田美紀と一緒に来てほしかった。
本当に、彼女は残念無念としかいいようがない」
小野田は、目を瞑った。
私も、憂鬱そうになりながら
「本当にそうですね。
私も美紀と二人で、組織を潰して、世界の国々の人々が文字通り一つになって幸せになる姿が見たかったです」
私は、先に仕掛ける事にした。
小野田は、表情を変えずに緩やかに
「君は、15年前から変わらないな。
どこまでも、先の理想を見てる。
だが、世の中にはできる事とできない事が存在するんだ。
世界が、一つになれないのは組織だけのせいではない。
あらゆるものが、障害となって邪魔してるんだ。
例えば、文化・宗教・そして利権、国によっていろいろな事情がある。
だから、世界を一つにするというのは現実的には不可能なんだ。
高山恵里、全ての人が君みたいに心が綺麗な人ばかりならそれもできるかもしれない。
だが、実際は人には感情というものがあり、そして、誰しも欲というものがある。
だから、夢物語なのさ、世界を一つにするなどという事はな」
私は負けずに
「だからこそ、一人一人が考えていく必要があるんです。
確かに、今すぐには無理です。
でも、一人一人がそう考えていく事で未来は開けるそう思っています」
小野田は、笑顔になった。
「君は、本当にいい娘だね。
だが、この話しをしても私と君では平行線だ。
私と君は、闇と光だからね。
その光である君が、私に会いに来た以上、私に聞きたい事があるんだろ?」
私は、頷いた。
「はい。何故組織のやる事に疑問をもっていながら、自らの手で組織を終わらせないんですか?」
小野田は、苦笑いしながら
「さすがは恵里だ。直球の質問だな。
その理由は、簡単だ。人は一度、権力をもつとそこに依存するようになる。
例えそれが、間違っているとわかっていてもそれを止める事ができなくなるんだ。
権力は、人を狂わせる、例えば、日本や世界の歴史の英雄達と呼ばれる人達も権力をもった途端に変わった。そしてあの橘も、最初からあんな奴だったわけじゃない。
組織の現実で、生きる中で狂ってしまったのさ、そうしなければ自分を保てないほどにな。
私も、君と美紀という楽しみができてから変わったからな。
それまでは、男女問わず容赦なく人を自分の手で殺したり、示唆を平気で行ってた。
だが、君達二人に出会ってからあらゆる組織の矛盾に気づいて、人を殺す度に虚しさが出てきた。
だから、君を消さなかったというわけさ。
君が、必ず生きて私までたどり着く事を願ってな。
恵里、私を変えた君に引導をわたされるならこれほど嬉しい事はない。
君以外の相手なら、間違いなく殺してるだろうからな。
恵里、二つ頼みを聞いてくれるか?」
恵里は、キョトンとして
「二つですか?」
「そうだ。一つ目は、君が想う理想を、正確に言えば私が間違ってるという証明を君自身の手でしてほしい。
二つ目は、一回だけ抱きしめさせてくれ」
恵里は、小野田の想いを受け止めた、本当に凄い人物だと思った、私がここに来た時点で、証拠を見せる前に自ら認めてしまったのだから、普通は証拠を突きつけるまでは、絶対に真実を明かそうとはしない、つまり、私がここにたどり着く事さえできればそこで終了という事を小野田は最初から決めていて、最後に未来を私に託すために、直接一対一で話したかったという事だ。
本当に自分の娘として私を見てくれていた事がよくわかった。
私の手で小野田を逮捕した後に組織は潰れた。
その後、日本で新たにできた病院の内科部長に私は任命された。
その病院の名をhope病院といって、世界中から優秀な医者が集められ、隆は外科部長に就任し、理想の医療に向けて私達は、走り出した。
息子の一輝は、政治家になり、最年少で首相になった。
私達は医療で世界を一つにすべく動き、私が70歳になった時、医療でもって世界を一つにすることに成功した。
私と隆は、小野田の墓参りに行き
世界が一つになった証明をした。
こうして私達の役割は終った。
「久美子、あなたは行く?」
久美子は、首を振って言った。
「私は、ただ小野田を目の敵にしてただけだから、組織の事だって何も知らずにね。
だから、私には行く資格はない。
美紀の意志を継ぐのは、恵里だけよ」
私は、久美子の表情を見た後
「わかった。あなたの分まで私は戦ってくる」
久美子は、笑顔で頷いた。
久美子は、恵里を今日ほど尊敬した日はなかった。
本来なら、恵里の立場からしたら、組織の黒幕の姪という立場なのだから、自分も組織の一員なのではないか?もしくは、黒幕を知ってたんじゃないか?と普通は、聞くはずなのだが、恵里は一言も口にしなかった。
つまり、それだけ恵里が自分の事を信じてくれてるという証なのだから、それに加えて自分も叔父のところに来るか?という心の広さ、本当に凄いと思った。
私は、ついに小野田の隠れ家にやってきた。
そして、チャイムを鳴らすと小野田自ら出てきた。
私を見ると
「ほう。古波蔵恵里か。
懐かしいお客さんだな。
入りなさい。私一人だ」
そして、小野田は私を家に招き入れて居間に連れて行った後、玄関と窓の前に壁がおりた。
「古波蔵恵里、これで君とジックリ話しができるな。
私は、この日を15年待った。
君とずっと一対一で、話したいと思ってた。
君と、初めて会った日の事を覚えているかな?」
私は、頷いた。
今から15年前である。忘られるわけがない。
あの年は、所詮この世は弱肉強食というのを、頭の中で刻みつけられて、その中心にいたのが、小野田だったからだ。
まさか、灯台元暮らしとは、思っていなかった。
だから、驚愕するしかなかった。
小野田と初めて会ったのは、私・美紀・響子の三人で会ったのだ。
「君達が、新井教授が一目置く三人か。
君達は、何故看護婦になりたいのかな?」
美紀は言った。
「理想の医者、理想の医療を目指すためです」
「ほう。理想の医療か。なるほどさすがはあの国谷先生ですら、一目置くだけはある」
「国谷先生を、知っておられるんですか?」
「国谷先生を、知らない医者はもぐりと言っていいほどの有名人ですからね」
「君達は、何故看護婦になりたいのかな?」
恵里は言った。
「患者の心を、救うためです」
「患者の心を救うですか。
なるほど、素晴らしい理想ですね。
しかし、おそらく理想の医療を考えるよりも難しいことですよ」
「私は、そうは思いません。
人は、わかりあえれば必ずどんな患者の心でも救うことができる、そう思います」
「なるほど。君が、成長するのを楽しみにしてますよ」
響子を見て、「君は、三嶋教授の娘さんだね。
君は、何故医者ではなく看護婦を目指そうと思ったのかな?」
「私は私、父は父ですから。
それに、看護婦だからこそできることがあると思ったんです」
「なるほど。そうか。」
「三人共、よく勉強していってくれたまえ」
これが、小野田との最初の会話だった。
小野田は、懐かしむように言いながら
「 よく生きて私までたどり着いた。
君が、死ななくて本当に良かったよ」
小野田は、まるで別人のようだった。
あの、きつい口調で黙らせるというやり方でくると思ったのだが、そうしてこなかった。
小野田は、続けた。
「だが、本音を言えば真田美紀と一緒に来てほしかった。
本当に、彼女は残念無念としかいいようがない」
小野田は、目を瞑った。
私も、憂鬱そうになりながら
「本当にそうですね。
私も美紀と二人で、組織を潰して、世界の国々の人々が文字通り一つになって幸せになる姿が見たかったです」
私は、先に仕掛ける事にした。
小野田は、表情を変えずに緩やかに
「君は、15年前から変わらないな。
どこまでも、先の理想を見てる。
だが、世の中にはできる事とできない事が存在するんだ。
世界が、一つになれないのは組織だけのせいではない。
あらゆるものが、障害となって邪魔してるんだ。
例えば、文化・宗教・そして利権、国によっていろいろな事情がある。
だから、世界を一つにするというのは現実的には不可能なんだ。
高山恵里、全ての人が君みたいに心が綺麗な人ばかりならそれもできるかもしれない。
だが、実際は人には感情というものがあり、そして、誰しも欲というものがある。
だから、夢物語なのさ、世界を一つにするなどという事はな」
私は負けずに
「だからこそ、一人一人が考えていく必要があるんです。
確かに、今すぐには無理です。
でも、一人一人がそう考えていく事で未来は開けるそう思っています」
小野田は、笑顔になった。
「君は、本当にいい娘だね。
だが、この話しをしても私と君では平行線だ。
私と君は、闇と光だからね。
その光である君が、私に会いに来た以上、私に聞きたい事があるんだろ?」
私は、頷いた。
「はい。何故組織のやる事に疑問をもっていながら、自らの手で組織を終わらせないんですか?」
小野田は、苦笑いしながら
「さすがは恵里だ。直球の質問だな。
その理由は、簡単だ。人は一度、権力をもつとそこに依存するようになる。
例えそれが、間違っているとわかっていてもそれを止める事ができなくなるんだ。
権力は、人を狂わせる、例えば、日本や世界の歴史の英雄達と呼ばれる人達も権力をもった途端に変わった。そしてあの橘も、最初からあんな奴だったわけじゃない。
組織の現実で、生きる中で狂ってしまったのさ、そうしなければ自分を保てないほどにな。
私も、君と美紀という楽しみができてから変わったからな。
それまでは、男女問わず容赦なく人を自分の手で殺したり、示唆を平気で行ってた。
だが、君達二人に出会ってからあらゆる組織の矛盾に気づいて、人を殺す度に虚しさが出てきた。
だから、君を消さなかったというわけさ。
君が、必ず生きて私までたどり着く事を願ってな。
恵里、私を変えた君に引導をわたされるならこれほど嬉しい事はない。
君以外の相手なら、間違いなく殺してるだろうからな。
恵里、二つ頼みを聞いてくれるか?」
恵里は、キョトンとして
「二つですか?」
「そうだ。一つ目は、君が想う理想を、正確に言えば私が間違ってるという証明を君自身の手でしてほしい。
二つ目は、一回だけ抱きしめさせてくれ」
恵里は、小野田の想いを受け止めた、本当に凄い人物だと思った、私がここに来た時点で、証拠を見せる前に自ら認めてしまったのだから、普通は証拠を突きつけるまでは、絶対に真実を明かそうとはしない、つまり、私がここにたどり着く事さえできればそこで終了という事を小野田は最初から決めていて、最後に未来を私に託すために、直接一対一で話したかったという事だ。
本当に自分の娘として私を見てくれていた事がよくわかった。
私の手で小野田を逮捕した後に組織は潰れた。
その後、日本で新たにできた病院の内科部長に私は任命された。
その病院の名をhope病院といって、世界中から優秀な医者が集められ、隆は外科部長に就任し、理想の医療に向けて私達は、走り出した。
息子の一輝は、政治家になり、最年少で首相になった。
私達は医療で世界を一つにすべく動き、私が70歳になった時、医療でもって世界を一つにすることに成功した。
私と隆は、小野田の墓参りに行き
世界が一つになった証明をした。
こうして私達の役割は終った。