私は瑞希先生のオペを見ながら、手が震えた。

見事な腕に。さすがは脳外科の実力は、世界でも五指に入ると言われるだけはある。

瑞希先生は私に

「安心して上で見てなさい。

私の実力をあなたに、見せてあげる。

必ず救ってみせる。

患者を救うために、私は医者になったんだから。

ね?」

とウインクした。

本当に優しいお姉ちゃんである。

第一助手はアイラが、ついた。

私はゴールデンコンビのオペを見せてもらっていた。

そんな時、一人の男が入ってきた。

進藤である。

上からオペを見ながら

「何故、君が助手につかない。

神山先生の弟子として、ただ見ているだけなど恥ずかしいと思わないのか?」

私は余裕の笑みを浮かべて

「アイラなら、何の問題もないでしょう。

アイラは、アレクサンダー教授の自慢の弟子ですし、全てが身についてますから、瑞希先生にとってこれ以上の相棒はいませんよ」

進藤は笑みを浮かべて

「そう。今回はアイラがいた。

だが、もし、アイラがいなかったら、君は第一助手をやったか?」

「あなたこそ、外科医としての定石を忘れてしまったんじゃないですか?」

「定石か。定石なんてものは、本当に実力をもつ者にとっては、吹き飛ばして前に進むのが、強い医者だ」

私は呆れたように進藤を見ながら

「あなたは武者ですね。

外科医の使命は武士道にあります。

武者はただ、戦うだけ。

武士道は戦いをおさめること。

それが、患者を救うために、一%でも、マイナスになる可能性がある医者には、オペをやる資格はないということです。

一%でも救える確率を上げるのが、私達の役割です。

あなたのやり方では、救える患者を死なせる時がきます。

覚えておいて下さい」

私と進藤は睨みあった。

「なるほど。真田美紀を救えなかった答えがそれというわけか」

「ええ、そうです」

と私は、はっきり答えた。

進藤ははっとして

「すまない。悪いのは高村だったな。

内科的治療をしてから、オペをすれば確実に助かってた。

君は、真田課長と高村のせいで、する必要のない失敗の経験をしてしまった。

そして、神山先生のミスで、恐くてしょうがないんだろ?」

ちょっと間をおいて

「だが、外科医は武者になってでも、前に進まなければならない時がある。

腕が立つ医者なら、空の境地に誰が、患者であろうとなれるようでなければならない。

そういうことも覚えておくことだ。

そう、後悔というものは後からやってくる。

いいか。

自分の腕の方が上で、オペをやらずに知り合いが死んでも、君は同じ事が言えるか?

人は、結果によって判断する。

君のやり方では、必ず自分がオペをするべきだったと後悔する時がくる。

覚えておくことだ。

俺や国谷は、少なくともどんなオペだろうと正面から、向かい合ってきた。

他の医者に任せて、助からなかったでは、一生の悔いが残ることになる。

君の言う事は正しいが、腕のある医者ほどそういう悩みとぶつかるという事も知っておくことだ。

だから、外科医は武者にならなければならない時もあるのさ。

後悔しないために、ベストを尽くす。

それが、外科医の使命だ」

そう言って進藤はオペが、成功したのを見届けて、出て行った。

「どこまで行っても、平行線だな。

進藤先生とは。

それにしても私が、進藤先生に意見しちゃうなんて。

自分でも驚いたな。

相手は国谷先生に、匹敵する外科医、私から見たら雲の上の存在なのに・・・・・・」

私は自嘲の笑みを浮かべた。

その頃、進藤は豪快に笑いながら

「まさか、俺にあそこまで意見してくるとは、さすがは神山先生の弟子。

面白い女だ」

そして、病室に戻り隆は意識を取り戻した。

「恵里、ありがとう。

おかげで助かったよ・・・・・・」

私は首を振って

「私は何もしてないわ。

見ていただけよ」

隆は私の頭を撫でながら

「いや、君の声が聞こえたから、私は目を覚ましたんだ。

ありがとう」

私はそのまま泣いた。

そして、退院してから、私達は結婚することに決めた。

そして、私達は国谷先生夫妻に仲人を頼み、結婚した。