私達は、飛行機に乗りながら

二人が遺した手紙を読んでいた。

二人揃って風のように現れて、風のように去っていた男達だ。

そして、短期間なのに大きい印象を残した二人。

まったく、困った二人だよ。

井原の手紙には

恵里、お前がこれを読んでるということは、俺はこの世にもういないんだろうな。

だが、俺は人を殺した。

どんな理由があったとしても許されることじゃない。

だから、因果応報と考えてくれ。

人は人を殺したら、何があろうと罰を受けなきゃいけない。

超法規的措置で、罰を受けないなどということは何があろうとあってはならない。

俺はずーっと悩み苦しんでた。

雲の上の方が決めたこととはいえな。

俺はお前の護衛を命じられて、本当は近くにいたんだ。

だが、裏世界はどういうわけか、小野田から、お前の命を狙うことは許さんと命令を受けてたらしい。

小野田はよっぽどお前を、気に入ったというよりは、自分とまったく正反対のお前が、成長するのを見たくなったんだろうな。

本当に患者の心を、看護婦が救うことができるのか、見たくなったということらしい。

だから、小野田の息のかかった者が、お前を狙うことはない。

お前の方から向かっていかない限りな。

新井教授が、仰った全体像を見失うというのは、そういう意味だ。

小野田とは違う裏世界の連中が、動いて邪魔な新井教授を殺した。

小野田より、遥かに巨大な存在と思っていた方がいい。

だから、前にも言ったがどこに、小野田と違う裏世界の連中とぶつかってしまうかわからん。

だから、事件に首を突っ込むような危険なことはしないでほしい。

これからは、今までのように守ってはやれない。

お前が、一人前の看護婦になるところをできれば見たかったが、俺にはそんな資格はないからな。

恵里、人をお前の思うように救え。

それが、俺の・いや、お前を知ってる人間全ての人の願いだ。

お前ならあの小野田すら、変えることができるかもしれない。

戦うのではなく、心で人を救い続けろ。

お前ならできる。

井原

と書かれていた。

私は涙が止まらなかった。

この馬鹿!馬鹿!馬鹿!

何で直接、言わないのよ!

本当に馬鹿!

死ぬことが償うことになると思ってるの!

馬鹿!

隣で美紀も涙を流していた。

悪いな。美紀、この手紙がお前に渡ってるってことは、俺は死んじまったんだな。

本当はこんな手紙、誰にも読んでほしくない。

直接、お前に言いたい。

だが、危険なことに首を突っ込んだ以上、いつ、死んでもおかしくない。

それに、お前らを守るためだったら、俺の命なんてくれてやってもいいと本気で思ってる。

女の癖にお前らは、勇ましい。

同時に戦う女の姿ほど美しいものはないって、本気で思うんだ。

今までお前らのような女は、いなかったから余計に新鮮でな。

お前らから、離れたくなかった。

そして、医療のセンスもお前らは素晴らしいものをもってる。

俺の代わりに、たくさんの患者を救い続けろ!

お前ならできる。

そして、国谷先生が仰ってた。

お前には、自分を越える資質を持ってるとな。

美紀、どんどんオペの経験を積んで、腕をあげろ。

小山事務次官は、本気でお前を気に入ってる。

親の七光無しでな。

必ず小山事務次官が、お前らにチャンスをくれるはずだ。

あの人は、権力に執着してるように見えて、気に入った人間にたいしては、どんな手を使っても、一人前の道に進めるようにしてくれてるはずだ。

お前らを一度、東京から離して、俺が行かせるとしたら高知だ。

あそこには、国谷先生の同期の田島先生がいるから、思う存分勉強してこい。

看護大学の騒ぎがおさまって、成城大学病院の救命にあの方は、お前らを行かせたがってるからな。

ゴッドハンドの神山先生の弟子にしたがってる。

国谷先生が、日本にいない今、あの方が、日本一の外科医だからな。

最後に美紀、俺はお前が好きだった。

権力の親を持ちながら、俺を差別せず、一般人の恵里を親友として大事にするお前の器に、俺は一目惚れした。

俺が、お前と勝負した本当の理由は、お前が医療の世界で羽ばたきやすいように、結果を小山事務次官に報告して、親の七光無しで、お前を事務次官に見てもらうためだったんだ。

悪かったな。

と言っても、権力とすぐ問題を起こす、俺達兄弟を真田課長は、嫌ってるからな。

大事な娘は、お前にだけは渡さんとはっきり言われてたんだが、恵里と真田課長が話してから、俺の見る目が明らかに変わった。

恵里は凄い女だな。

厚生労働省の課長に、一般人なのに、一目も二目もおかれてやがる。

親友を大事にしろよ。

それが、お前に贈れる最後の言葉だ。

あばよ。美紀。

沖田洋平

美紀も当然、直接、告白してもらいたかったのは言うまでもない。

そして、恵里の存在の大きさを改めて実感した美紀だった。

あの百戦錬磨のお父さんを認めさせるなんて、凄いな。

ありがとう。恵里。

と涙が止まらなかった。