ユリアは、誰も知らされてない改革の裏話しがあるのを知っている。

死刑制度廃止と同時に、もう一つパンドラの箱がある。

それは、官僚の給料である。

お祖父ちゃんは本気で、官僚の年収を400万にしようとしてたらしいが、父上の考えは違う。

「いいか?ユリア。

官僚が何故、天下りをするようになったかわかるか?

トップに立つためのレースに負けた官僚のメンタル面を、落とさずに民間企業に異動させて、民間企業で役立たせられるようにする。

それが、本来の理由なんだ。

つまりだ。官僚の年収を本当に400万にしてしまったら、本当の意味でこの国のことを考えてる官僚の長所すら無くすことになるんだ。

父上は、国民の側に立ちすぎて逆に、この国を悪くすることになるということに気づいてない。

いや、自分の死期が近づいて焦ってたんだろうな。

官僚の年収400万は、ただの国民向けのポーズだ。

まずは、国民の官僚批判を減らし、官僚になりたいと思わないような世の中を変えなければならない。

そうしなければ、本当の意味で優秀な官僚を育てることもできない。

そして、適材適所での官僚の異動なら、むしろ国は発展する。

悪用する官僚がいるから問題なんだ。

それと、官僚の定年は60歳と定め、50歳になった官僚でトップとNo.2に立てないとわかってる官僚には、民間企業で働けるようにするための企業研修をさせた上で民間企業に異動させる。

そうすれば、官僚の中での新陳代謝が速やかに行われるようになるから、官僚も変わっていく。

ただし、退職金は60歳になったら官僚の時の分と民間の時の分の適正な額を渡すようにする。

そして、官僚の中でも、命を懸けて現場で犯人捜査をする官僚のボーナスは上げてもいいと思ってる。

それと自衛隊のメディックの給与・消防庁の火事の現場で働く人達、特別救助隊・海上保安庁の特急隊・潜水士の給与を上げる。

人のために本当に動くことができる者達こそが、報われる世の中にする。

ユリア、政治をする以上、焦るな。

焦れば、それは自分に返ってくる。

いいか。世の中を動かすには、世の中の空気に寄り添うこと、そして、いかに利用して、こっちの空気に持ち込むか。

そこが鍵だ。だが、空気を悪用しようとする者達には徹底して戦い、こっちの空気をつくりあげるんだ。

それが、この日本という国での戦いだ。

俺の次の首相は、帝神族の人間がなる。

これが、帝神族との裏取引だ。

まず、帝神族は死刑制度廃止を無くして、表面的には年収400万でいくが、裏では一級捜査官の年収を1000万円に引き上げ、ノンキャリアの刑事には一級捜査官を目指してもらう。

一級捜査官の存在は、人格者で常に冷静沈着な捜査ができて、銃の腕が超一流であることが条件だ。

つまり、交番の巡査が、警視待遇の一級捜査官になることもある。

場合によっては、警察学校を卒業すると同時に一級捜査官に採用される人間も出てくる。

それは、刑事局長の判断だ。

日本版CIA・一級捜査官を束ねるのが、刑事局長の役割だ。

そして、各県警本部長は刑事局長の補佐的な役割として、各県警にいる一級捜査官を動かして、捜査してもらう。

凶悪犯・各省庁の官僚をこれで、極秘に監視させる。

民間企業もな。県会議員も監視できる。

そして、諸外国の情報収集及び、諸外国との連携、国際指名手配犯の確保及び、日本国民に害をなす組織を潰すのが任務だ。

時には、首相直々の命令で動くこともある。

日本国民を守るために、スパイ行為をさせないためにな。

官僚の天下りも、民間企業の不正も、これで一網打尽にできる。

帝神族は徹底的にやるだろう。

奴らにとっては、歴史を自分達の意のままに操りたい願望があるから、官僚と民間企業の勝手なやり方は、俺以上に許さないということだ。

お互いにこれで利害一致だ。

皮肉だよな。あの帝神族と利害一致するほど、この国は腐りきってる。

発展途上国での物資の横流し、自衛隊の基地問題、アメリカの都合だけで、沖縄に戦略上の都合の理由で、基地をおいてるしな」

「父上、アメリカの裏にはそんな大物がいるんですか?」

「ああ、いる。セイジ家もそいつらには逆らえない。

アメリカを牛耳るドンの力は、恐ろしいものがあるからな。

アメリカが、何故、ここまで力をもつかわかるか?

アメリカにもいるんだよ。

厄介な連中がうようよしてる。

帝神族にとっても厄介だ。

ヨーロッパに巨大な組織が、三つあるのも、見せかけだ。

だが、ヨーロッパ・次にアメリカ・これも見せかけなんだ」

私は驚愕した。

「父上、まさか、黒幕は帝神族じゃないんですか!?」

「帝神族が元々は牛耳ってたんだが、妖龍族の策略によって、帝神族は数の差もあり、追い詰められた。

妖龍族の得意技だ」

「それじゃあ、黒幕は一体!?」

「冥界族が、そのチャンスを逃すわけないだろ?

それにアイテールが、つくりあげた冥界族は、あんなに甘っちょろい連中なわけがないんだ。

アイテールの恐ろしさはそんなものじゃない。

帝神族の下端のやり方は、封印されてる奴にとっても、面白くないんだ。

つまり、奴が、外から指示を出してるということだ。

アイテールとの頭脳戦に勝たない限り、この世界を、平和にすることはできないということだ。

ユリア、見誤るな。

謀多きは勝ち・少なきは負ける。

覚えておくことだ。

奴はどこまでも、俺達の前に立ちはだかるらしい」

これが、父上が語ったことだ。

やはり、私は父上の足下にも及ばないのを感じた。

それと同時に、私が本当にリーダーでいいのか、また、揺らぎ始めてる自分がいた。

器が違いすぎる。

私は考えてる自分がいる。

もし、父上を復活させていなかったらどうなっていたのだろうと。