ユリアはいきなり、高島栄一の家に素顔で瞬間移動した。

アッシュールは少し驚いた顔をしたが、私の顔を見て、笑顔になって私を抱きしめた。

「ユリア、待ってたぞー。

お前が来るのを、お祖父ちゃんずーっと待ってたぞー」

アッシュールは本当に泣きながら、太古の時代以来の再会に、大泣きしていた。

「お祖父ちゃん、真面目な報告を聞いてからにしようよ」

「すまん。すまん。ワシ、あまりにも嬉しくてなー」

これが、私に対する本当のお祖父ちゃんの接し方だ。

本当に変わらない。昔と。

私は生まれてすぐ地獄の修行場に父上に連れて行かれて、育てられたため、教育もそこで全て行われていたため、私は完璧な正当後継者として戻った。

アルテナはレナと一緒に、カンヘル族の修行場で私として修行及び教育を受けたのだが、欠点だらけだった。

私とアルテナは、大神オーディンの命令で入れ替わった。

ということで、お祖父ちゃんが、私に怒ったことは一度もない。

で、二人きりで会った時はこんな感じで、後は芝居だ。

お祖父ちゃんは、優秀な私が可愛くて・可愛くて、仕方ないのだ。

初孫だからというのもあるだろう。

実の娘が、戦死していたのも関係があった。

だから私は特別で、アレスと結ばれる時も、父上より先にお祖父ちゃんを説得しにいったくらいだ。

父上も十分過保護だと思うけど、お祖父ちゃんの過保護ぶりは筋金入りだ。

つまり、お祖父ちゃんと父上の不仲も、私とお祖父ちゃんの不仲も全て、芝居なのだ。

本当は、絆が深い。父上とも。

偉大なる大神オーディンの策である。

全てを欺くためにそうしたのだ。

大神オーディンは、私達が一枚岩ではないと思わせておいた方が、後で役に立つと仰ったのだ。

だから、二人きりの時のギャップが激しい。

お祖父ちゃんと普通に私は呼んでるし、お祖父ちゃんもそう呼ばれることを、心から喜んでいた。

ただし、私限定だ。

私以外の妹弟達が、間違ってもそんな呼び方しようというものなら、殴り飛ばすだろう。

本当に認めていない限り決して許さないということだ。

私は父上に厳しく育てられたため、私は自分が完璧だと自負していた。

オーディン族の正当後継者として、誰よりも父上に私は似ている、そこで、完璧な私を見せるのではなく、私と欠点だらけのアルテナを入れ換えることで、正当後継者は欠点だらけと思わせた。

普通に考えたら、随分大胆な策だ。

仲の良い国の信用を失いかねない行為ですらある。

だが、それでも大神オーディンは決断したのだ。

そして、未来に行ってからの私に対する指示を、予め、大神オーディンから受けていた。

私にたいして唯一、厳しかったのが、大神オーディンだ。

そう、デビウスに手も足も出ずに負けた時、私の全てが崩れ去った。

それも、大神オーディンが、私にさせた試練なのだ。

ゼロから再び始めて、私が立ち直れるかの試練というわけだ。

閻魔は私を睨みつけて

「慢心は身を滅ぼす!

覚えておけ!」

と怒鳴りつけられた。

私は立ち直るまで、かなりの時間がかかった。

父上には内緒。お祖父ちゃんは、私の方から来るまで会わないように大神オーディンに命じられ沈黙を守った。

父上は当然、何も知らないため

「ユリア、何故、会いに来ない?

何かあったのか?」

と聞かれたが、私は父上に

「偉大なる大神オーディン直々の命令です。

ことを成し遂げるまで、父上に会うことは許さん!

だそうです。

アッシュールが、死ぬまでは私に構わないで下さい!」

と私は冷たくわざと突き放した。

心の中では泣いていた。

今の私の姿なんて、誰にも見せたくない!

特に慢心する元凶になった父上の顔なんて、見たくない!

私は恨みをいつの間にか、大好きな父上のせいにすることで、乗り越えようとし、死者狂いで動き、私はいつの間にか憎しみから脱出して、未来のために動き、デビウスを倒すところまでいった。

冥界でデビウスを倒して、気を失った後で、夢の中に大神オーディンが現れ、全てを説明してくれた。

一度、ゼロから立ち直れてこそ本物。

だから、アッシュールにお前の方から会いにいくまでは、会わないように命じたと。

そして、お前はワシの期待にこたえて、ちゃんとここまで辿り着いた。

本当に頑張ったな。ユリア。

全てワシが仕組んだことだ。

恨むならワシを恨め。

いいな。


そう言って消えた。

さて、現実に戻り

「皇帝、真面目な報告をさせていただきます」

アッシュールは、いつもの表情に戻り、私から離れて

「わかった。頼む」

「大神オーディンの策は、全て成功させました。

黄神族だけで1000兆円の資産があり、セイジ家の資産も2000兆円にまでなりました。

日本からチャイルド族を追い出し、日本とアメリカが協力し、チャイルド族を排除するために動けるシステムが、できあがりました。

そして、冥界族は完全に父上、指揮の下、アイテール帝国として団結しましたので、資産3000兆円、合わせまして6000兆円です。

後はあの男を倒せば、日本の改革は成ります。

アレスが既に動いてますので私は、皇帝の秘書兼家政婦として、動かせていただきます。

皇帝の手腕を見せていただきます。

正当後継者として・・・・・・」

アッシュールは涙を流しながら

「そうか。ユリアが一緒にいてくれるか。

お祖父ちゃん、嬉しいよ。

お前が、側にいてくれれば百人力だ。

ユリア、ワシの最後の仕事、よく見ててくれ。

お前にばかり、辛い思いをさせてすまないが、お祖父ちゃんの最後のわがままを聞いてくれ」

私はつい目頭が熱くなって、お祖父ちゃんに抱きついた。

こうして、家政婦兼秘書として、最期まで一緒にいることにした。

お祖父ちゃんが、何故、自分の死を選んだのか、それには大きな理由がある。

自分の孫達のために大きな対価を払ったのもそうだが、それだけではない。

それは、人は命に限りがあるからこそ戦えるということを、自分の孫や曾孫に寿命が尽きるまでは生きて生き抜けというメッセージなのだ。

意義のある生き方をしろというメッセージだ。

そのためなら、自分は死んでも構わない。

それが、アッシュールの出した結論なのだ。

本当は三年前に死んでたはずだったのだけど、改革をするまで生きるよう私は対価を払った。

大神オーディンが、命令を出した。

「改革が成るまでは死ぬな!」

と、それこそが、人の生き様だと。

だから、お祖父ちゃんは従ったのだ。

私の目の前で、お祖父ちゃんの最後の戦いが始まろうとしていた。