ルナは、本物か偽物かは五分五分とふんでいた。

その理由は、清美は裏の裏をかく性格でもあるからだ。

正確には、他人に自分の代わりに危険な役をやらせるとは考えられないからだ。

それと自分自身でいた方が、ことが進ませやすいからだ。

そして、偽物だった場合は、アンシャルが清美を見つけ出すための策と考えた方が自然だ。

アンシャルは、対抗馬の巨大組織のアイテールの組織を潰し、裏世界全てを手に入れることを考えているからだ。

そして、清美の父を殺すよう示唆した組織がアイテールの組織なため、奥田知則を潰すために協力できるというわけだ。

そして、もう一つは、清美が最も信頼してる人物で、かつ清美が今、組織に潜入しているために、身動きできないため、敵を誘き出す必要があるからだ。

その場合、清美は必ず近くにいて様子を見ていることになる。

そう考えれば、和馬のあの芝居の意味も理解できるというわけだ。

偽物であることを、はっきり本人に言うことで守ろうとしたということだ。

そして、和馬に指示を出したのは清美本人だというわけだ。

三沢和馬、又の名を田原信玄・又の名を月島信玄という。

信玄は清美の弟なのだ。

だから、姉ちゃん子の信玄が反発したくなったという見方もできるんだけどね。

昼、屋上では、和馬と和美が厳しい顔で話し合ってるようだったし、夏希は清美と同じく厳しい表情で話していた。

あの分だと清美と夏希は深い知り合いなのだと予想がつく。

と言っても、表面上は従姉妹同士なのだから自然ではあるのだが、同じ組織の一員という可能性も高いが、今のところはそれでいいか。

問題は、あの夏希という女が敵か味方かといったところね。

誰も気づいてないみたいだけど、あの清美に引けを取らない不気味な臭いを感じる。

そんな時、私は冷や汗をかくような威圧感を感じた。

片山博之と大滝満、気配は消しているが、人を平気で殺してきたような凍りついた目をしていた。

片山が、私に近づいてきた。

「ルナ・セイジ、面白くなってきたな。あの堺清美が本物か偽物かは知らないが、ああいう女を見てるとゾクゾクするよ」

「まさか、あなた自ら出てくるとはね。シグルド」

片山は驚いたように

「さすがだな。私の正体に気づくとはな」

「あの大滝満は何物なの?」

「私も知らんが、ただ者ではないな。

そんなことより、本物の堺清美に伝えてくれるか。

ルディ・ガルシアを始末するのに協力してくれれば、警察省にするのを認めてやるとな」

私は溜息をつきながら

「清美は、そんな取引に応じないわよ。

あなたが、実の父親を殺すよう命じたのを知ってるんだから。

アイテールを潰して、自分で警察省にすると清美ならそう言うと思うわよ。

それに今回の場合は、アンシャルに協力した方が得だと思うけど?」

シグルドは鼻で笑った。

「本当にお前さんも、私が月島望を殺すよう命じたと思ってるのか?

そして、奥田知則に殺す理由があると思っているのか?」

私は首を振った。

「現時点では何とも言えない。

アンシャルには、エレボスがいるからね」

エレボスは、シグルドの宿敵と言われてる人物だ。そして、目的のためなら、どんな卑怯なこともするゲスなのだ。

「だから、可能性としては五分五分でしょうね。

でも、おそらく清美はアンシャルの組織に潜入してると私は見てる。

つまり、清美は身動きできない」

「なるほど。だから、あんたが出てきたり・偽物が出てきたりするわけか。

だが、はっきり言っとく。

月島望殺しは、我々は関係ない。

もちろん、奥田知則もな。

経済界の革命児を殺しても百害あって一理なしだ。

それに、お前さんもわかってるだろうが、アダムを潰したいのは我々のほうだからな。

つまり、対立する理由もないということだ」

そう、そこが不可解な点なのだ。

アダムを潰したいのは我がセイジ家と同様なため、その通りなのだ。

それは、アダムが原因だとしたらの話だ。

アダムは、臓器売買までやる悪徳企業、全世界を牛耳る警察のトップにいるシグルドにとって、ただではすませられないことなのだ。

そして、未だにあの企業を潰せないのは、かなりの大物が裏にいるからだ。

もし、シグルドが敵側ならアダムを潰せないのは当然なのだが、もし、それが、シグルドの名を語ったエレボスという可能性もあるのだ。

だが、できすぎてる気がするのだ。

まるで、何者かに操られてるような、そして清美の祖母である天才エージェントの栗岡菊代は、清美と私に忠告した。

「二人とも、よーく聞きなさい。真実なんてものはね。力ある者ならいくらでもねじまげられる。

真実を見つけ出すためには、真実を惑わそうとする人物達に欺かれちゃ駄目よ。

感情的にならず冷静に真実を見なさい」

私も清美も、物事が起こった時、常に冷静に見るよう心がけてきた。

だからこそ、今回、清美の大がかりの策にのったのだ。

もし、真の敵がいるのなら必ず出てくると私達は見てる。

いなければありのままを見ればいい。

どちらにしても、頭脳戦になる。

「まあ、清美はどちらにしてもあなたにはつかないわ。

どっちも怪しいんだから仕方ないわね」

シグルドは苦笑いしながら

「だったら、今回の件で証明してやるよ。

我々が無実だとな」

そのまま立ち去った。

私が廊下に出ると驚くべきところを目撃してしまった。

清美と大滝満がキスしていた。