親父の巌雄は、昔から存在感そのものが凄く、上に立つべくして立った人物で、近づくのも避けたくなるほどの威圧感があった。

俺は、昔から親父が苦手だった。

一つ一つの厳しい仕来りや礼儀作法、そして、上に立つ者としての考え方、学校の教育に関しても杉家の人間として恥じないように家庭教師もつけられ、地獄の勉強を毎日のようにやらされた。

だが、俺は勉強などというものやうるさい仕来たりや礼儀作法なんて、そんなものやりたいやつだけやれという感じだったので、親父から何度も雷が落ちた。

そして、俺が絵ばっかり描いてることも親父にとっては気に入らない話しだったのだ。

だから、津軽に行くと決めた時真っ先に思い浮かんだのは、親父の怒りの形相だった。

そして、予想通り親父は第一声怒鳴りつけてきた。

俺は、冷静に対応した。

「俺には、大事な家族ができました。

だから、親父とお袋に紹介しにきたんです。」

俺は、間をおいて

「俺の隣にいるのが、妻の笛子・そして、その隣にいるのが加寿子・亨です。」

そして、俺は、笛子達に言った。

「笛子、目の前にいるのが、親父の杉巌雄だ。

おめぇも自己紹介しろ。」

笛子は、戸惑いつつ言った。

「私は、冬吾さんの妻の笛子です。

以後、お見知りおきお願い致します。」

と頭を下げた後に親父は笛子の方は、眼中になしといった感じで言った。

「冬吾、妻子ができたから許されるとでも思ってるのかお前は!

杉家の恥さらしが!

こんな田舎臭い小娘と、誇り高き杉家の人間が一緒になるなど言語道断だ!」

テーブルを叩きつけて言った。

俺も、テーブルを叩きつけた。

「親父、それは違うよ!

杉家の人間だから、好きな相手と一緒になれないなんていうのは間違いだ!

いいか!親父の言ってるのはただの差別だ!、俺の妻を侮辱するな!」

そして、お袋も俺を応援するかのように続く。

「あなた、いいすぎですよ!

冬吾は、絵描きの名誉ある賞、独立絵画賞を受賞して、そして可愛いいお嫁さんと子供達を連れてここにいるんです。

杉家の誇りは、賞を取ったことで解決しています。

そして、今は絵描きが不遇の世の中なのにも関わらず冬吾は今まで私達を頼らず、自分達の力で生きてきました。

その冬吾に、何ということを言うんですか!

それに、冬吾を支えてきたのは笛子さんです!」

親父は、お袋をビシッと引き離して言う。

「黙れ!お前は、引っ込んでろ!

これは、男と男の話だ。

お前が、口を挟むことじゃない!」

目線を再び、俺に向けた後に言った。

「冬吾、お前が東京で何をやったかわかってるのか?

隆は、国の政治家だぞ。

なのにお前は、美術協会とやらで国に反発する行動を取った。

お前が、どれだけ隆に迷惑をかけてるのかわかってるのか?」

俺は、さすがにそれを言われると痛かったが俺は思うままに言った。

「親父、確かに兄貴のことを考えれば申し訳ないとは思うさ。

だが、俺は俺、兄貴は兄貴だと思ってる。

兄貴も、俺の好きなようにするように言ってくれた。

俺は、だから自分の信念を貫いたんだ。

戦争をするという事は、人が死ぬということだ。

俺の、絵描きの同志達も次々と戦争に出て行った。

そして、中には大事な仲間の戦死公報が届いた事だってあった!

だから、仲間のためにも信念を貫くと決めたからやったんだ!

戦争とは、どういうものなのかを語るためにな!」

俺は、初めて親父を睨み付けながら話した。

すると親父は、笑みを浮かべていた。

「冬吾、お前に信念などという言葉が出てくるとはな。

あの甘ったれが、大事な人の死によって成長したようだな。」

と言ったのだった。

俺は、親父からこんな言葉が出てくるとは思わなかったため茫然としていた。