三沢幸子は、看護大学時代、恵里とは違う看護大学で四年連続首位で卒業した秀才であり、看護師は通過点で医者になるのが目的なのが、美紀と同じであることから、恵里とは美紀の死後、半年がたった時に出会い親友となったのが三沢幸子だった。

幸子は、人柄もよく、誰にたいしても優しく面倒を見る人物だった。

恵里とは、性格的にも似た者同士で二人はすぐ仲良くなった。

そして、中学時代美紀と同級生であったことも大きかった。

だが中学時代は、性格は正反対で美紀を怒らせるほど、人を見下し、プライドの高い、そう、昔の響子みたいな存在だったのが、美紀との出会いであらゆる意味で変わったのだ。

美紀の存在が、自分を変えたという意味でも恵里と幸子のつながりは深かった。

そして、幸子との出会いがあったからこそ美紀はすぐ響子と仲良くなれたのだ。

そう、相手がどういう人間か見透せるように美紀はなったというわけである。

お互いに、そういう話しをしながら二人は仲良くなっていったのだ。

恵里と幸子が出会ったのは、ちょうど喘息の子供の患者が苦しんでいるのを見て、二人で応急措置を取り救急車を呼んで病院に運び、医者の話しによるとあと五分遅れていたら死んでいたと言われ二人がとっさに協力しあった結果、一つの命を救うことができた、それがこの二人を近づけたのだ。

お互いに認め合い尊敬しあえる仲、それは美紀との関係以外では二人は初めてだった。

美紀という一人の人間が、これだけ人に影響を与える存在だったのは本当に凄かったことを、二人は改めて感じた。

しかし、幸子は最初はお互いに尊敬しあう仲だったのが、いつしか恵里の医者としての天性の才能に嫉妬し、別人のように変わっていったのだ。

彼女の医者になりたい気持ちは、響子の純粋な気持ちとは違うことが、恵里をライバルとして一方的に見るようになってしまったのだ。

そして、それから十数年が経ち彼女は、アメリカでトップ3になる外科医に成長したのだ。

その彼女が、突如一風館にやってきて、恵里に頼み事をしたのだ。

アメリカで、「アメリカでどうしてもオペをやってもらいたい人物がいるからアメリカに来てほしいの。」

と、恵里にとってはその申し出は驚きだった。

アメリカでトップ3の外科医の彼女が、わざわざ一風館までやってきてオペを頼むのだから・・・。

その時、恵里に相談に来ていた同級生達もいたため恵里は、はっきり言った。

「悪いけど、その申し出は受けられないわ。」

幸子は、恵里がそういうふうに言う事を読んでたがごとく言った。

「それが、クライツェルさんだと言ってもそう言える?」

恵里は、さすがに驚愕した。

クライツェルは、恵里にとって大恩人にして、アレクサンダー教授の息子である。

つまり、最初から断れない相手だとわかってて頼みにきたというわけである。

だが、恵里は言った。

「私は、内科部長という立場上その申し出は、受けられない。」

幸子の表情は、みるみる険しくなった。

「あなたは、それでも医者なの?

いくら犯罪者だったとはいえあなたの恩師の息子でしょ?」

恵里は、まっすぐ幸子を見て言った。

「あなたも、世の中、立場によってできることとできないことがあるということをわかってるんじゃない?

私は、今の立場がどれほど重要なのかよくわかってる。

もっとも、国内でのことならやったかもしれないけどね。」

幸子は、恵里の予想外の言い方に驚いた。

そういう言い方をされれば、返す言葉はなかった。

何故なら、立場というものがどれほど重要なものなのか幸子も痛いほど理解していたからだ。

にも関わらず日本に来たのは、患者自身が執刀医を恵里に指名してきたからである。

その事を恵里に、今度は頭を下げて頼んだ。

恵里も、さすがに考えた。

それは、今、病院には大物の代議士が内科に入院しているのだ。

それだけではなく、大物俳優等も入院していた。

その状況で、内科部長がいない時に何かあった場合、病院にとってもまずいことになるのだ。

だから、さすがの恵里も動きたくても動けない状況というわけである。

特に、大物代議士の担当医は恵里だった。

だから、動くわけにはいかなかった。

突然、担当医を変えようものなら間違いなく病院そのものが叩かれるはめになる。

かといって、患者自身、それも恵里にとっては恩人であるクライツェルを見捨てたということになれば、何かあった場合自己嫌悪に一生苦しむはめになる。

だから、すぐに答えはでなかった。