冬吾は、達彦の前で絵を描き、八州治と八重とハツ美は、賭け事等、達彦にとってありえない姿を見せられ、ここに桜子がいることそのものが、達彦にとって間違っていると思ってしまったのだ。

冬吾達は、空気を読めない非常識なところを見せてしまった。

達彦の気持ちに気づかないまま、それを続け、そこに桜子が帰ってきた。

桜子は、達彦を見て、そこにぽつんと立ってる達彦が勝手にピアノを弾こうとしてると思い込み、達彦の心配を気づかないままピアノの練習を始めた。

達彦は、呆然としながら部屋を出ていった。

冬吾にとって、桜子が元気にピアノを弾く姿を見ると不思議と元気になる自分がいた。

多分、他のメンバーも同じだろうと思った。

一方達彦は、部屋を出ていきマリが男と別れるところを目撃し、より桜子のピアノを練習する場所としてふさわしくない環境だと思ってしまう自分がいた。

おまけに、皆の前でマリは、「送別会を私のためにやって。」

と上目線でいうため、まず、八州治が、「お前なぁ。本当にここ出てくっつうなら送別会の一つもやってやんなきゃいけねぇなとも思ってたんだよ。」

八重は、「そうよ。私達たいしたことできないけど、何か応援してあげないとって思ってるわ。」

マリは、口調を強く「へぇ。優しいわね!

あたし、あんたのそういうところが大嫌い!

偽善好きで、誰にでもいい顔しようとする!」

その間に割って入ったのが桜子

「そんなことないです。」

マリは悪ぶるように、「あんたもよ。お節介女!いいから、これでお酒買ってきて。」

そこに、八重と桜子にたいしてわざと悪ぶるマリにたいして冬吾は、怒鳴りつける。

「いい加減にしねぇか!

誰もおめぇに、人の妾さなれとは頼んでねぇ。

行きたくなければ行くな。

んだども、自分で行くと決めて行くなら祝ってやる。

文句さこかずに行け!」

マリは、その言葉に部屋を飛び出す。

八州治は、冬吾を見て

ため息をつくように、「冬吾、また女泣かしちまったよ。」

と言った。

桜子と八重は、マリを追って部屋を出ていく。

冬吾は、マリを見てるとむなしくなる自分がいた。

マリが、妾に行く日、ダンスを踊る最後の日、ダンスホールに桜子・ハツ美・八重からの贈り物が届く。

その頃達彦は、八重から冬吾と八州治からの贈り物をもってダンスホールに向かった。

達彦が出て行った後、笛子がマロニエ荘に到着し、冬吾と初対面をする。

笛子は、冬吾に「桜子は、こちらにおりますでしょうか?」

冬吾は、

「ニューオリンズだ。ダンスホールだ。浅草の。」

笛子は、怒ったようにダンスホールに向かった。

冬吾は、呆然としたように、「とがったおなごだな。」

と呟いたのだった。

マリの件が、片付いた後、冬吾・八重・ハツ美は、酒を飲みながら

「マリの前途を祝して」

乾杯した。

八重は、ガックリするように冬吾を見ながら

「本当は、行きたくなかったのよ。

あなたが、強く言えば行かなかったかもしれないのに。」

間をおいてため息をつきながら、

「わかってたんでしょ。マリの気持ち。

冬吾さんて、優しいようで冷たいところがあるのよね。」

冬吾は、何も言わず、マリの気持ちに答える気がない以上マリを止めることはできない、それが冬吾の考えだ。

八重の言い分には、無理があると思ったその時

桜子・達彦・マリが歌を歌いながら上機嫌で帰ってきた。

三人が驚く中、マリは、言った。

「男と別れてきた。

このこ達に手伝ってもらって、逃げてきたの。」

冬吾は、二重に驚いた。

あれだけここの住人に、不満をもっていた達彦が笑顔でいること、そして、マリの事、桜子の不思議な力に驚きながら言った。

「大丈夫なのか?」

マリは、上機嫌のまま言った。

「平気よ。もう、どんなにしつこくされたって戻らない。」

間をおいて、「私、ずっと怖かったの。

お金がなくなって、くいつめて、どこかでのたれ死ぬのが。」

マリは、決意を述べるかのように言った。

「でも、気がついた。

本当に怖いのは、貧乏じゃない。

一人になることだって。

私には、あんた達がいるから一人じゃないもんね。」

八重は、頷くように

「そうよ。のたれ死ぬにしたって、皆一緒よ。」

マリは、笑いながら

「全然ありがたくない。

この偽善者。」

そう言うと泣きながら、八重と抱き合った。

冬吾は、マリの素直な言葉にホットしつつ、 桜子の、人の心を溶かす優しさを冬吾は感じたのだった。

桜子以外の誰に、マリをここまで素直な人間にすることができるだろうと思ったからだ。

達彦の笑顔を見て達彦もまた、自分と同じように思っているのだろうと思った。