谷原は、冷静に言葉を続けた。

「今から14年前、すなわちあなたが看護大学一年の時に起こったことを覚えていますか?」

恵里は、驚きながら聞いた。

「何故14年前なのですか?」

恵里を、まっすぐ見ながら言った。

「それは、あの年には二つの謎があるからです。」

「謎・・・ですか?」

「はい。まず一つ目が新井俊介教授の死の謎と新井教授が組織を潰すためにもっていた切り札はどこにいったのか?

二つ目は、その当時の平尾警視総監がもみ消したとされる事件の真の黒幕は誰かということです。

ちなみに、小山事務次官が恐れるほどの人物だということはわかっています。」

恵里は、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

「一つ目については、全くわかりませんが、二つ目の黒幕は、高野元首相じゃありませんか?」

谷原は、苦笑いして言った。

「残念ながら、高野元首相じゃないから困ってるんですよ。

高野元首相は、橘先生の腹心でしたから、間違ってもありえません。

だから、三年後高野先生は事故に見せかけて殺されてしまったんですけどね。

橘先生は、謎を解きたいと考えております。

とにかくとてつもない、大物が、かんでいるのは確実です。

ですから、あなたの知っていることを話してほしいんです。」

恵里は、お手上げという表情で谷原を見た。

「残念ながら、わかりません。」

谷原は、ちょっとがっかりして

「そうですか。

あとこれは、橘先生からですが、もしこの件を調べる気があるのなら、自分の秘書になって、自分の力を使って調べる気はないかとのことでした。

もし、その気があるのなら私の携帯に連絡して下さい。」

そう言うと、谷原は帰って行った。

恵里は、ガクッと倒れた。

気がつくと病室にいた。

文也が、心配そうに見ていた。

「恵里、大丈夫か?一体何があったんだ?」

文也にそう言われても、ボーッとして聞こえてないようだった。

恵里は、話せなくなってしまったようだった。

放心状態だった。

恵里は、そのまま入院になった。

もちろん、北栄総合病院の心療内科に移された。

そして次の日、何と国原信二が恵里の前に現れた。

「久しいな。上村恵里。

まさか、こんなところで会うとはな。

未だに、14年前のことで苦しんでいるということか。

俺は、谷原とは昔からの知り合いでな。

だから、すぐに来れたというわけだ。

14年前、石神を狂わせた本当の首謀者を知りたければ、石神が14年前お前の同級生二人を殺した現場に来い。」

そう言うと、国原信二は病室を出ていった。

そして、それから国谷がやってきた。

国谷は、あっさり恵里を目覚めさせた。

「恵里ちゃん、何があった?」

国谷を、見ながら言った。

「14年前のことを、思い出して倒れてしまいました。」

国谷は、沈痛な表情で言った。

「そうか・・・。ゆっくり休むことだ。」

そう言うと国谷は、出ていった。

恵里は、病院を抜け出し14年前の現場に行った。

あの日の悪夢を、嫌でも思い出すことになった。

そして、夜、国原信二はやってきた。

「本当に来てくれたみたいだね。

古波蔵恵里さん。

実はあの時、ここで殺された平尾麻美は、私の恋人だったんだ。

だから、彼女を殺した石神が憎かったんだが、石神の背後に石神を狂わせた奴がいることがわかった。

最初は、小山事務次官だと思ったが、小山事務次官ほどの人がそんなことをするわけがない、何故なら俺の親父を相手に全面対立してたからだ。

親父ほどの大物に逆らえば、キャリアが終わるのはわかってるのにも関わらずな。

つまり、石神を狂わせた奴は別にいる。

そして、俺は真実にたどり着いた。

石神の日記が、残っていたんだ。

これを、読んで見てくれ。

そうすれば、真実がわかる。」

この日記は、石神の筆跡と同じだった。

その当時、石神は助教授だった。

だから、はっきり筆跡を覚えていた。

その日記には、石神が悪になった日のことから書かれていた。

全ての始まりは、西岡和馬という男が石神の前に現れたことから始まった。

西岡和馬は、その当時帝華大教授にして文部科学省を牛耳るほどの実力をもっていた。

厚生労働省も、西岡をコントロールすることはできなかった。

その西岡が、その当時忠誠を誓っていたのがその当時の幹事長、名を三嶋陽介と言った。

三嶋は、幹事長でありながら首相すら逆らえないほどの力をもっていた。

三嶋は、自分に逆らう者は容赦しなかった。

病院や学校を、潰すことなど簡単な話しだった。

それを利用して、西岡を使って命令を下した。