会田昭子さん(仮名

88)がいつも座ってたのは このイス。




とある簡易宿泊所の入り口の向かって右側。


ここで ヒルも夜も弁当をほおばりながら訪問者に話しかける。


「なんでここにいるの?」

「ひとりで部屋で食べても 味気ない。」

「人間観察。おもしろいわよ~」


とにかく、話し好き。

風貌は 超小柄のやせ型。

婆ちゃんって言うより、なんて表現したら良いんだろう・・・

爪にはマニキュアを欠かさない。

頭の回転は速く 話しはおもしろい。

スタジオ・ジブリに出てきそうなユニークさ。

達観した人なんだろうな、

過去は語らない。


「あたしはサ、もうシーラカンスの化石なの!」

「そうなの。ぜったい口から産まれてきたんだわ」


介護者から 何いわれても、

「病気なんかないんだから!」


認知症かもと言われても

「んなこと あるわけナイの!」

「どっかわるけりゃ すぐ死ぬの!」


この簡易宿泊所に 介護が入るずっと前から 女ひとりの簡宿住まい。


わかってる過去情報といえば、茨城の大洗の海岸うまれ。

それだけ。


年齢的には、終戦時17歳くらい。

いろんな「転」があった人生に違いない。


昨夜遅く亡くなった。

大腿骨頸部骨折で近医入院。

直後から、「帰る」「手術はいや」と言い続け。


とうとう退院を勝ち得た。

退院後、食べない。

ハンスト状態。


一週間前、往診に行った。

「ここでいいのかい? ここで看取るよ」


「それでいいの!」

と二つ返事。


思いを遂げて満足そうに逝った。


お迎えの車に スヌーピーとプーさんとチョコ菓子。




本人は 遠足気分で旅に出たのだろう。


まったく、じたばたしない。

みごとな生き方だな。


最期までしゃべってた。

ホントにくちから産まれて くちを残しながら・・・。

髪染めもしてもらって。




息を引き取る30分前、介護ヘルパーに


「入れ歯どこかしら??なくしちゃった」って。


Sヘルパー、入れ歯を渡して

「またくるね」

30分後訪室したら 冷たくなっていた。


23:30だった。


ビール飲んでたので直行せず、死亡確認は今朝に延期した。


みんなそろった朝のほうが良いと思った。


小さい身体を布団に横たえて、穏やかな顔。

爪にはきちんとマニキュア。

歯も入って。

旅支度。


人気者だった。

孤独死どころか、数えてみたら19人。

霊柩車にお辞儀していた人数である。


往診先の入り口にいつも狛犬のように座ってた。

 軽口がもう聞けないのはさびしいことだ。

あっちにいったらまた軽妙なやりとりが楽しみだ。