僕は国谷 荘介 (くにたに そうすけ) 高校三年

3月に同じクラスに転向してきた女子 西成田 佳余(にしなりた かよ)

とようやく話すようになった

 

人見知りする子で 自分からあまり話す事は無かったけど

彼女が教科書を忘れてきた事がきっかけで話すようになった

打ち解けてくると 彼女の方から話しかけてくるようになった

帰りも同じ方向だったから 途中の駄菓子屋で待ち合わせして

そこから一緒に帰るようになった

学校から一緒だと友達にからかわれるし

 

佳余はあまり家庭の事を話したがらなかった

自分もそこを深く聞くこともなかった

両親は共働きで帰りが遅くいつも一人で夕飯を作って食べているらしい

 

ある日 いつものように一緒に帰った時に

「今日家に来る?」「夕飯一緒に食べない」

と言われ

「もうすぐ試験だし 一緒に勉強しよう」

そんな事を言って来た

 

ショートカットで笑うと八重歯があって 可愛かった

それでも自分は彼女に好意を持っている事を悟られないようにしていた

 

自分は数学が苦手で いくら勉強しても覚えられなかった

佳余は数学が得意で国語は苦手と言っていた

 

テーブルに向かい合って 教科書をだして勉強していた

不定積分の問題を見ながら これは「アラビア語にしか見えない」

と言ったら佳余は笑いながら 順序立てて説明してくれた

説明してくれるときに顔を近づけてくるのでドキドキした

 

「そろそろ夕飯作るね」と言って 台所に向かった

自分は勉強しながら何を作ってくれるのかなと期待していた

そんなんだから勉強した内容が頭に入って来なかった

 

「今日は一緒に食べてくれる人がいるから嬉しい」と

ニコニコしていた

自分の母親が作る料理と違って

おしゃれな料理が出てきた

名前を聞いたけどカタカナの料理で聞いたことがなかった

料理は食べてくれる人がいると作り甲斐があると言っていた

 

結婚したらこんな生活が待っているのかなぁとぼんやり考えていたら

ご飯食べたら残りの時間は勉強だよと

甘い時間はやってこなかった

けど食後のリンゴは美味しかった

 

両親はいつも12時すぎに帰ってくるからそれまでは勉強だからねと

半ば強制的に勉強させられた

自分の親はいつものように男友達の家で勉強していると思っている

 

11時半頃まで一緒に黙々と勉強していた

時々佳余は紅茶をだしてくれた

学校で見かける佳余と違って家では家庭的に見えた

そろそろ帰る時間が近づいてきたので

帰り支度を始めたら

 

また来て一緒に勉強しようねと言われた

これからも話し相手になってねと

その言い方が少し寂しそうに見えた

 

家ではいつも一人だから 話し相手がいないから寂しいと

それに両親とはあまり話をしないと言っていた

 

それから夏になって

数日が過ぎて行った

 

実は佳余の家で勉強したのは

あの時の試験勉強前の数日間だけだった

 

試験が終わってからは事情があって家に来れないと言われた

一緒に帰ることはあっても家に遊びに行く事はなかった

 

夏休みも家族でどこか遠くに行くらしく佳余と会う事も出来なかった

時々ラインは来たけれど 絵文字も無く スタンプも無い

何かあったのかな?

 

9月になって 10月になって なぜか自分の事を避けるようになった

一緒に帰ることも無くなった

相変わらず佳余はクラスで孤立していた

自分もそんな佳余の態度に嫌気がさして

話す事もなくなった

 

あれ程あの時は仲が良かったのに

ずっと話し相手になってと言われたのに

理由がわからなかった

 

 

風が冷たくなった11月の末に

めずらしく佳余からラインがあった

今度の夕方の土曜日に会ってほしいと書いてあった

 

なんだよ今さら

その時 佳余にはもう好きな感情は無くなっていた

 

正確に言うと好きな感情が無くなったのではなく 自分で強引に無くした

嫌いになるように努力した

嫌いになったと自分に言い聞かせていた

 

それでもあの日一緒に夕飯を食べた事を思い出した

なんで急に自分に冷たくなったのかも聞きたかった

 

そして土曜日に待ち合わせの公園に向かった

 

遠くでブランコに座っている 後ろ向きの佳余がいた

 

近くまで行って

 

「来たよ」って言ったら

 

振り返った佳余の目には涙がいっぱい溜まっていた

 

「ごめんね」と言ったとたん 涙が溢れてきていた

 

そこからぽつりぽつりと話し始めた

 

自分と一緒に勉強していた頃に クラスの女子から嫌がらせがあったらしい

佳余はクラスでは大人しかったけど 容姿が目立っていた

派手じゃないけど 可愛い顔つきなので

一部の女子から反感を買っていた

それに何人かの男子は佳余に好意を持っていた

 

転校生の分際で男子と気軽に話して

それに自分が佳余の家に行った所を同じクラスの女子に見られて

それが女子の間で広まって 影でいろんな嫌がらせを受けたと言っていた

家でもずっと泣いていたらしい

だから自分と距離を置こうと決めたと

 

泣きながら話すので佳余の声がうまく聞き取れなかった

 

 

「なんで もっと早く俺に言わなかったんだ」

 

「ごめん 言えなかった」

 

そんな答えが返ってきた

 

 

その話を聞いたときに なんで佳余の変化に気づいてやれなかったのか

その場で自分を責めた

佳余がそんなに苦しんでいたのに守ってあげれなかったのか

自分の無力さに嘆いた

 

その後に佳余は

 

「でももう大丈夫だよ」

 

「私 転校するから」

 

「もうここから居なくなるから 安心して」

 

「クラスの女子は私の事 嫌っているから 私が居なくなったらみんな嬉しいでしょ」

 

「だから荘介も新しい彼女作っても大丈夫だよ」

 

「私の事は忘れていいから」

 

そう言いながら 涙を流していた

 

 

辺りはだいぶ暗闇になってきて

 

「そろそろ帰らないと でもね 私」

 

「荘介の事 大好きだったよ」

 

「私何回も転校しているから 本当の友達って出来なかったの」

 

「だから荘介と一緒に会っている時は本当に楽しかった」

 

「私のご飯 美味しいって食べてくれてありがとう」

 

その時 自分も涙が出てくるのがわかった

 

「俺も佳余と会っている時間が楽しかったよ」

 

「今まで食べた中で佳余の作った料理が一番美味しかったよ」

 

 

「ありがとう 荘介 私の事忘れないでね」

 

「数学 ちゃんと勉強してね」

 

この時間がずっと止まって欲しかった また佳余と一緒に勉強したかった

 

もっと佳余と居たい また料理が食べたい 

 

それでも無情にも時間は過ぎて行ってしまった

 

佳余が帰ろうとした時に

 

「佳余 大好きだよ」

 

大声で言っていた

 

周りに人が居ようが関係ない位 大きな声で叫んでいた

 

「ありがとう」

 

これが佳余と交わした最後の言葉だった

 

 

次の日の日曜日はまったくやる気がおきなくて 一日中寝て居た

 

月曜日に最後に佳余に会えるかと思ったけれど

 

ご両親の都合で日曜日に引っ越したと朝礼で先生が言っていた

 

クラスの男子はみんな驚いていた

 

自分はしばらく何もやる気が起きなかった

 

ご飯も美味しいと思わなかった

 

 

勉強も身が入らなかった

 

アラビア語のような数学の式がなんか寂しく感じた

 

数学を親切に教えてくれる佳余の姿はもう無かった

 

しばらくして佳余にラインを送った

 

数行書いたと思う

 

その返信が

 

(*^o^*)

 

この絵文字だけだった

 

ラインもこれが最後のやりとり

 

 

 

カタカナの美味しい料理の名前はいまだに思い出せない

 

思い出せるのは

 

数学が得意で八重歯が可愛い笑顔と

 

夕陽の中で泣きながら自分の事を好きだと言ってくれた佳余の姿だった

 

 



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Written By – Paul Williams, Roger Nichols