町田市立国際版画美術館で開催中の『自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート』展大1章第3節「自然の蒐集―植物」より、レオンハルト・フックス(1501-66)の『植物誌』。医師であり大学教授として教えもした。オットー・ブルンフェルス、ヒエロニムス・ボックとともに、「ドイツ植物学の父」の1人とされる。

De historia stirpium commentarii insignes 1542

豪華な衣装を身にまとい、見るからに裕福そうだ。

左上からハインリッヒ・ヒュルマウラー(下絵)、右上アルブレヒト・マイアー(画)、下ファイト・ルドルフ・シュペックリン(版刻)

PICTORES OPERIS, SCYLPTOR  1542年
Füllmaurer, Heinrich; Meyer, Albrecht; Specklin, Veit Rudolph

 

ヒュルマイアーの描いたフックスの肖像画。(展覧会には出展されていない)。裕福で、聡明な印象を与えるようにだいぶ美化されている感じがする。

 Heinrich Füllmaurer (tätig um 1530/40) Portrait of Leonhart Fuchs (1501-1566)
1541 Landesmuseum Württemberg  

少し調べてみたが、フックスの植物誌以外の仕事はほとんど出てこなかった。この植物誌にたずさわったとして記憶される人々のようだ。

 

フックスの植物誌が優れていた点は、単ページに植物の画像とラテン語・ドイツ語の呼称だけが配され、余計な情報を省いて「対象のすがた・かたちを明確かつ正確に提示しようとした」、「できるだけ簡潔な線で表わされている」が、「植物の形態を抽象化したともいえる挿絵の中には、装飾意匠を思わせる美をたたえたものも少なくない。」(展覧会図録、p41)

 

 桑木野幸司氏の図録冒頭のエッセイにも、フックスの『植物誌』と、ブルンフェルスの『本草写生図譜』の挿し絵が比較されている。ブルンフェルスの書物に添えられた木版画は素晴らしかった。「なにしろデューラーの弟子であった画家ハンス・ヴァイディッツ二世の下絵に基づく極めて写実的なイメージだったからだ。」しかしながら、それは画家の見たある特定の植物で「個々の植物品種に共通する普遍的特徴をこそ弁別すべき、と言うスタンスで研究に取り組んでいた学者にとっては雑音以外のなにものでもなかった。」(展覧会図録、p10)

 

2年前に書いたブログ。

ハンス・ヴァイディッツ二世に関して。

 

 

展覧会で開かれていたページ。装飾的意匠を感じさせる図。

 

このアナガリスという植物を調べてみると、サクラソウ科で和名ルリハコベと言う。草丈20‐30cm、花も直径2㎝ほどの愛らしい植物。写真に撮ってもこの図版のようには見えない。

普遍性を志向するが、やはりある種の美意識を感じさせるのが興味深い。