『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《農民の踊り》より続き。ゼリングが挙げる細部は,活力と「生きる喜び」にあふれているという手前の二人の男女。

「色彩のコントラスト,そして,手前にいる男女の姿が,この二人の『間』で踊る別のカップルによって男女反転で描かれる構図は見事である。」 「男の足は解剖学的には不可能だがそれすらもこのイメージの力と雄弁さを損ねることはできない」(p277) 

 

 確かにこの男の前に一歩出た右足は,どうみても左足のように見える。女性の手を引く男が後ろを気にもせずに手を引いていく様子とその表情,後ろを行く女性の慌ててついていく様子と表情が実に面白い。このユーモラスな場面には,吹き出しのセリフを入れたくなる。「遅れちまった,もうみんな踊ってるぞ。はやく行って踊ろうぜ」「ちょっとアンタ,そんなに引っ張らないでよ…」

 

もうひとつの細部。

小さな女の子二人が踊る場面,一見無邪気なイメージだが、背景の男女のぶぶんと視覚的なリズムをなしているという。

 

そして二人の少女の間にバグパイプ奏者の腰にさした剣が子どもの顔に向かっている。その意味について明示的には言っていないが、圧迫する意味と書いている。幼い子どもたちを圧迫する意味とは何だろうか?