『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《農民の婚礼》より。ゼリングが挙げている細部。

男が大きなジョッキから小さなジョッキにビールかワインを注いでいる図。「ブリューゲルは実際には描くことのできないものを描くことができる,と当時の人々が言ったとき、その事例となるのがこの図であろう。」(p287) この半透明の液体があたかも流れているかのように描いている。それに加え,私はこの籠に入っているいくつかのジョッキの描写に惹かれる。

ブリューゲルはいわゆる静物画を描いていないが,(当時まだそういうジャンルも無かっただろう)もし静物画が求められた時代に生まれたとしても,それだけで大家となれる腕前。画面の端の孔雀の羽らしきものが気になる。

そのすぐ隣の指を舐めている子どもの帽子に付いているようだ。この子どもの仕草と言い,服の質感の表現と言い,本当に描くことのできないものをも描く,描けないものは何もない画家だと改めて嘆息。