「コップのフチ子」生みの親はサウナ大使 最新事情と魅力語る

ケボライト
2018/04/21 20:00

産経ニュース
2018.4.21 16:00

 サウナは「汗臭い」「おじさんが使うところ」-。こんな思い込みを覆すような、清潔感があり、アトラクション要素もあるサウナを導入した温浴施設が増えているという。サウナをめぐる最新の状況について、著書「サ道」が、サウナー(サウナ愛好者)の間で“教科書”“聖典”と呼ばれ、3月に新著「はじめてのサウナ」(リトルモア)を出版したマンガ家のタナカカツキさん(51)に話を聞いた。

アトラクション要素も

 「『終電を逃したおじさんが使うところ』『汗臭い』-。サウナにこういうイメージを持つ人もいると思いますが、最近は清潔感のある施設が増えました。例えば熱したサウナストーンに香りのついた水をかけて水蒸気を発生させる『ロウリュ』は、リラクセーション効果が得られます。どんどんおしゃれになってきているんですよ」

 サウナのPR活動を行う「サウナ大使」も務めるタナカさんは、こう語る。

 厚生労働省が発表している「衛生行政報告例」によると、平成28年度の全国のサウナの数は1482件。5年前の23年度(1883件)と比べると、「量」の面では減少傾向にある。一方で、「質」は年々向上しているという。

 「競争の結果、『自分たちの売りはこれだ!』といえる施設が増えています。ロウリュや『アウフグース』(ロウリュで発生した蒸気を、専門スタッフがタオルなどを使い室内に広げ、熱い空気を入浴者に送る行為)など、アトラクション要素のある楽しみ方もできました。これ、病みつきになるんですよね。施設によっては、サウナ室内が満員になるくらい、お客さんが増えています」

五感が研ぎ澄まされる

 近年は「女性のサウナファンも徐々に増えている」と語るタナカさん。そのため、「はじめてのサウナ」では主に女性読者を想定。サウナと水風呂の入浴を繰り返す「温冷交代浴」(交互浴)など、サウナの魅力を最大限に引き出す手法を丁寧に記した本だ。

 「以前、サウナは『我慢大会』というイメージが強かったのですが、最近は高温のサウナが減り、楽しみ方も心と体を整えるための“リラックス方面”に変わりつつあります」

 では、サウナの良さとはどこにあるのか。タナカさんは、「あくまで個人の感想です」と前置きしたうえで、次のように語る。

 「サウナが理由かは断言できませんが、サウナに入り出してから風邪をひきにくくなり、腰などのこりが和らぎました。気持ちがさっぱりして、五感が研ぎ澄まされる感覚もあります。そのせいか、入浴後は食べ物がいつもよりおいしく感じられるんですよ」

突然訪れた“ととのう”

 タナカさんといえば、カプセルトイ「コップのフチ子」(原案)など、多彩な作品を生み出したアーティストだ。そんなタナカさんがサウナに目覚めたのは10年前。

 「当時、仕事の関係で、目や肩のこりが激しかったんです。そのうえ、1回消しゴムをかけただけで、全身がつったことがありまして…。『ほんまにやばい』と思い、ジムに通い始めたのがきっかけでした」

 ただ、その当時はサウナに興味があるどころか、その逆だったという。

 「当時の僕にとってサウナは『壁』。興味がなさ過ぎて、存在が目に入ってこなかった。ただ、せっかくジムに通うことにしたので、元をとりたくて使うことにしました」と苦笑いで振り返る。

 サウナの気持ちよさに目覚めたタナカさん。だが、体に熱がこもる感じが不快だった。水風呂を試してみたら、冷たすぎた。が、次の日は足を浸せるようになった。その数日後は腰までつかり、最終的には全身…というふうに、徐々に慣れていったという。

 多くのサウナーが“ととのう”と表現する状態は、ある日突然訪れた。「水風呂から上がって脱衣所で休んでいたら、いきなり深い瞑想(めいそう)状態のような感覚になったのです」

 サウナの魅力にとりつかれたタナカさんは、自身のサウナ経験をつづった著書「サ道」を平成23年に出版。サウナーの増加に貢献した。

 「サウナは各地にあるけれど、誰も楽しみ方を教えてくれなかった。『世のおじさんたちは、こんな楽しいことを隠し持っていたのか』と思いましたね」

「働き方」にも好影響

 「サウナは休むための場所。逆に、よく働くための場所でもある」「コップのフチ子」のアイデアもサウナで思いついたという。タナカさんは、こうも指摘する。

 「長時間労働などを見直す『働き方改革』が叫ばれるいま、いかにうまく休むかも問われています。ただ、休むことにも上手下手がある。テクニック(技術)が必要なのです」

 実業家やスポーツ選手など、サウナの良さを知る人たちは徐々に増えているが、日本全国から見るとサウナを生活に組み込んでいる人は一部にとどまる。しかし、若いサウナーは確実に増えているといい、「ヨガやランニング、ウオーキングのブームが来た昨今、ついにサウナに出番が回ってきたと思います」。

 「これまでサウナの効果などを語ってきましたが、正直に言うと、全て後付けなような気もします(笑)。ただ、楽しいことを他の人にも伝えたい。それだけなんです」

(文化部 本間英士)

 タナカカツキ

 昭和41年、大阪府出身。60年にデビュー。「コップのフチ子」や、この春からNHKのニュース番組に登場しているAIアナウンサー「ニュースのヨミ子」のデザインなどを手掛ける。サウナ関係の著書も多く、「サ道」「マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~」などを出版。平成25年、公益社団法人「日本サウナ・スパ協会」から「サウナ大使」に任命され、PR活動などを行っている。

 コップのフチ子

 玩具メーカー「奇譚(きたん)クラブ」(東京都渋谷区)が手がけるカプセルトイ。タナカカツキさんが原案を担当している。OL風の女の子がコップのふちにぶら下がったり、腰掛けたりするポーズと、あくまでクールな表情のギャップが受け大ヒット。平成24年の発売後、シリーズ累計約1500種類、約2000万個を製造している。

 サウナ利用の前に

 高温のサウナや冷たい水風呂に入る場合、健康状態に注意が必要。血圧の変化が激しいため、不慣れな人や、高血圧、不整脈、貧血などの症状を持つ人は特に注意を。健康な人も、脱水症状を防ぐために水分補給は欠かさず、前後の飲酒も控えること。

http://www.sankei.com/life/news/180421/lif1804210003-n1.html