ミステリクラシック 3 ⑤『模倣の殺意』 【中町 信 作】
約50年前の作品で、作者の名前を日本ミステリ史に残すことができた、処女長編ミステリである。
新進作家だが、なかなか受賞第一作が書けない、坂井正夫という青年が、密室状態の自室で青酸カリ自殺した。
その死に疑問を持った編集者の中田秋子と、坂井の同人誌仲間、津久見伸助は、それぞれ独自のルートをたどって、坂井の死の真相をさぐっていく。
そしてその真相は‥‥思いもよらない(読者にとっても)ものであった。
自分も一読後こんがらがって、すぐに納得できなかった。それほど叙述に仕掛けが施されているのである。
1973年に双葉社から刊行された本作(当時の題名は『新人賞殺人事件』)は何回かの改訂を経て現在に至っている。
改定するたびに叙述に工夫を加え、作品を進化させたという珍しいミステリである。
作者は2000年代まで、中堅のミステリ作家として作品を発表していたが、2009年に他界している。
⑥『湖底のまつり』 【泡坂妻夫 作】
すでに他界して、14年が過ぎた日本ミステリ界の重鎮、泡坂妻夫の長編第3作である。
作者得意の手品のような騙しと、その文章表現の美しさに、あらためてびっくりした。
山間の村を訪れ、増水した川に流されてしまった若い女性が、晃二という村の青年に助けられ、その夜青年と結ばれる。
翌日、村祭りのある役をすることになっていた晃二(先に家を出ていた)を彼女が見に行くと、彼の姿はどこにもない。村人に聞くと何と彼は一月前に殺されたと聞き、愕然とする。
(では、自分が逢った晃二は何者か?)
ダムの底に遠からず沈む村を舞台に、二転三転するストーリー。
時系列をさかのぼる毎に意外な謎解きがあり、驚きワクワクする。
絶対読んで損はありません。