『霜の降りる前に』
この作品の特色は、ヴァランダーの娘であるリンダ(作中では現在29歳)の視点から、父親であり、刑事でもあるヴァランダーの日常や性格、事件を描いている点だ。
ヴァランダーがどんな人間として、他の人たちに見えるのかという感覚(それは作者マンケルが、自分の産み出したキャラクターを見直したいという気持ち)があったからかもしれない。
リンダから見ると、ヴァランダーはかなり困った親父のようである。
気が短い、怒りっぽい、寂しがり屋で女性に惚れっぽい。ワーカホリック的で、捜査官の資質には見るべきものがあり、信念を曲げず、必ず事件は解決する。
そして、自分(リンダ)の性格は父に似ていると、感じるのである。
今回の事件は、リンダの親友の失踪を発端として、職業として警察官をめざし、警察学校を卒業し、その約一カ月後にイースター署に勤務するまでの期間に起こった、宗教的テロリスト集団との対決である。
この作品の主人公はリンダと言っても過言ではない。そのためリンダが事件に関わる場面を設定するにあたり(まだ正式の警官になっていない期間なので)ややご都合主義的な展開が、なきにしもあらずである。
今までのこのシリーズに必要不可欠な迫真力、リアル感、サスペンス色、地道な捜査の細やかな描写等、今一歩という感じがしないでもない。
事件を通して描かれる現代社会の闇や問題、ヴァランダーの、(人生の黄昏)に向かう思い、などの描き方が少し弱いと感じられなくもない。
リンダを通して、ヴァランダーの元妻モナの、現在の生活の一端がうかがえる点も興味深い。
いずれにしろ、マンケルがヴァランダーシリーズの新たな展開を意図した作品であるし、今後どうなるのかたのしみにしていたのだが‥‥。次作も見逃せない!