玄関の方から「だいが、いるがねェ……」と聞き慣れないかすれた声が聞こえてきた。

   いつもなら、お客さんが来てもそんなに気にならないが、イントネーションが違うその言葉によねは引きつけられるように店の方へ目を向けると…。



   しかし、店には誰もいない。

(あれぇ?)

   よねが不思議に思っていると、微かに真ん中にあるガラスケースに人影が映る。それはとても小さな影だった。今にも消えてしまいそうな影。


   その時、よねの目にスッと飛び込んできたのは、あまりにも小柄で、あまりにも皺くちゃで、あまりにも(こんなことを言っては失礼かとは思いつつ)汚らしいお婆さんの姿だった。


 頭には薄汚れた白い四角い板のようなものがのっていて、真ん中がポッカリと膨らんでいる。よくよく見ると板ではなく硬い布のようだ。


   しかし、布にしてはピンと張っており耳元に垂れ下がってはいない。ただ頭にポンとのせてあるだけだ。でも風で飛ばされないように、お世辞にもきれいとは言えないよじれた紐が顎で結んである。


   そのヘンテコリンな帽子の下からは、ぐしゃぐしゃに引っ掻き回したような髪の毛が、皺くちゃな顔を覆うように飛び出していた。


   そのぐしゃぐしゃな白髪の中には、所々残っている黒い髪の毛がまるで「俺たちの存在を忘れるな!」とでも言いたげに、白い毛をかき混ぜるように生えていた。


   そのぐしゃぐしゃな髪の毛に負けないくらい、顔も皺くちゃだった。浅黒い顔に、彫りの深い皺が幾筋も刻まれている。腰がひどく曲がっていて、杖の助けがないと上半身を支えられないというのは明らかだ。


 「老婆」という言葉はこういうお婆さんのためにあるのかもしれない、などと思っているよねの目と老婆の目が合った。しかし老婆とは思えないくらい眼光が鋭い。


 よねは「はっ!」として、慌ててお辞儀をした。

 すると、老婆はよねをじっと見ながら、真っ黒な歯をむき出しにニターッとした笑みを浮かべ、棚に並んでいる下駄に目を移した。


 よねは「何を見てるんだい!」と老婆から一瞬怒られそうな気がしたため、ホッと胸をなでおろした。


    老婆はそのままゆっくりとした足取りで、棚の下駄やガラスケースの品物を覗き込んでいる。

 なぜか老婆が無性に気になるよねは、炊けたばかりのご飯にお酢を入れてかき混ぜながら、チラッチラッと老婆を観察した。


 老婆がついている杖は、まるでこれ以上よじれないだろうと思うくらいよじれており、歩くたびに「カツンカツンッ」と音を立てた。


   着物はねずみ色。所々継ぎが当ててあり、少しほつれている、というよりも「ボロボロッ」といった方が説明は早いかもしれない。


    締めている茶色の帯も所々はげかかっていた。でも唯一つよねも目を奪われるものがあった。それは、首からダラーンと腰ぐらいまで下げている黒光りした長い数珠だ。


    真っ黒な飴玉ほどもある大きな数珠の玉がまるで生きてでもいるように、一つ一つ光の反射によっていろいろな色を映し出していた。


 老婆は気に入った下駄が見つかったのか、よねの方を見ながら、おいでおいでと手招きをしている。でもよねは躊躇した。


    なぜなら、掃き掃除や商品の並び替えといった手伝いはやったことがあるのだが、接客はまだ一度もしたことがない。ましてや、相手はこの老婆だ。10歳のよねが尻込みするのも無理はなかった。


(どうしよう、正司兄さんに作業場から出てきてもらおうか?)とも思ったが、あいにく正司は職人気質が強く、接客に向いていないということは妹のよねは良くわかっていた。

(それじゃあ、あさ姉さんに頼もうか?)そう思った時だ。


 突然、よねの喉(*1)に生えている髭が、まるで重力に逆らうかのように店の方へ向かってピーンと伸びた。


「イテテテテ……ッ!」


 よねは小さな叫び声を上げながら、髭に引っ張られて老婆の待つ店へと体が自然に向かってしまう。それも、首に縄をつけられて引っ張られるように上半身が先に立ち、足が後からついて行くというへっぴり腰スタイルで……。


「あれまあ、この店やのもんは、ずんぶ、おがしなかっこで出てくるなあ」


   老婆は、しわがれた声でそう言いながらニターッと黒い歯を見せた。

 その途端、ピンと張っていた髭はいつものようにブランとよねの喉にぶら下がるただの一本の髭に戻っていた。




(*1)私はどの辺からか「髭が顎に生えている」と書いていました。となるとここに生えていることになってしまいます 下矢印

   しかし『およねさん/虹の迷宮 第1章 髭の生えてる女の子 ②』では、次のように表現しています。


「喉と顎の中間あたりに3cm程に伸びた真っ黒な髭が一本生えている」


   私は喉のこの部分に髭が生えているつもりで書いていました 下矢印

   今後は「喉に髭が生えている」と致しますね。

もし間違いなど気がついたことがありましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。

どうぞ宜しくお願いします。



ワカバよもやまコーナー 

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   多くの皆様がブログで書かれているように、ワカバも「ゴジラマイナスワン」を観て来ました⋆͛🦖⋆͛

   でも、みなさんのような細かな解説、解析、分析が出来ないので、写真を織り交ぜながら書いて行きますねぇチョキ


   ガオーッ!とゴジラがお出迎え〜パー


   キャー、何だか怖くなってきたわぁアセアセ


   今までのゴジラは背びれが全体的に発光して熱線を出すのは知ってるぅOK  でも、今回のゴジラは尻尾の方から「ガキン、ガキン…」って青光りした背びれが立ち上がってきた…滝汗


   わぁー、凄いー!!


    最強の熱線放射が届いた所は大爆発ドンッドンッドンッ


     熱線の爆風が立ち尽くす群衆に向かう〜


    物凄い爆風から逃げられないーDASH!メラメラDASH!メラメラ



    民間人有志が集まって、海神(わだつみ)作戦決行!ゴジラと戦うのーお願い

     迫力満点、感動満載だったわぁ泣き笑い


   でも、ホントはシンデレラが大好きなワカバは、シンデレラのパンフを、買いましたラブラブ


 

   ワカバの部屋にあるシンデレラキラキラ キラキラ キラキラ



   王子さまと結ばれるシンデレラキラキラピンクハートキラキラピンクハート


 「シンデレラ」の原型「サンドリヨン」が英訳されたのが、1729年…、ワカバが20歳の時。

それから、314年間、王子様が現れるのを待ってるんだけど〜アセアセ


(おまえは千年以上生きる魔法使い「葬送のフリーレン」か…?)

   そうよ、ゴジラ細胞がある限り老化しないの

(ワカバの妄想劇場は果てしなくつづくの)



第14章「謎の老婆」③  へつづく


※ SNS からお借りした画像があります



「およねさん」


 今回の主な登場人物…


土志田(どしだ)よね…この物語の主人公。土志田家次女。朝美台(あさみだい)尋常小学校4年生。まだ自分にもわからない未知の能力を秘めている切れ長の目を持つ10歳の女の子。


謎の老婆…そのまま、謎の老婆です。



(ブログは毎週火曜日0時2分に更新予定です)