第5章 物納
第1 概要
1 物納の要件
原則として、相続税は金銭で納付しなければなりません。一括納付による場合も延納による場合も同様です。もっとも、例外的に相続税額が過大であり金銭での納付が不可能である場合には、物納をすることができます。
ちなみに、2006年10月に中小企業庁が実施したアンケートによれば、中小企業の経営者のうち、5000万円超の相続税負担が生じると予想する割合が約18%にのぼり、納税資金が十分でないために株式や事業用資産の売却や物納を考えている割合が約21%に達しています。中小企業の経営者にとっては、いかなる場合に物納が認められるのか、また、その手続きはどうなっているか等の点は必ず抑えておきたい事項です。
1 物納できる財産とその評価額
(1) 物納ができる財産
物納できる財産は、納付すべき相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税にかかる贈与によって取得した財産は除きます)で、日本国内になるものに限られます(j)。物納できる財産の種類と順位は以下の通りです。第2順位以降の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合や先順位の財産に適当な価額のない場合に限り認められます。
(ⅰ)国債、地方債、不動産、船舶
(ⅱ)社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
(ⅲ)動産
また、第1順位である不動産でも、以下の法令に列挙された管理処分不適格財産は物納できません。
質権、抵当権等の担保の目的となっている不動産、所有権の帰属について争いがある不動産、共有となっている不動産、譲渡に関して法令に特例の定めのある不動産、隣地との境界が明らかでない土地、売却の見込みのない土地、借地権の設定がある土地で円滑な借地借家契約が継続困難な不動産、買戻特約や所有権移転の仮登記のついたもの、耐用年数を経過している建物で通常の使用ができないもの、敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産、公共用地となっている土地または建物、社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産 |
物納といってもなんでもかんでも物納すればいいのではなく、会社に貸し付けている土地や自社株を物納すると以後の経営に支障をきたすことには注意しなければなりません。
(2) 物納の評価額
物納の評価額は、原則として、相続税の課税価格計算の基礎となった価額となります(J)。
第2 自社株の物納
1 自社株の物納の要件
相続財産のほとんどが取引相場のない株式で、かつ、その株式以外に物納の対象となる財産が無い場合には、以下の要件を充たすことによって、取引相場のない株式による物納が認められます。
(ⅰ)譲渡制限が付されていないこと(平成18年税制改正における管理処分不適当財産の範囲の明確化)
(ⅱ)買戻しが確実であること(相続税基本通達旧42-2(管理又は処分をするのに不適当な財産)(2)八(注))。
(ⅲ)金銭納付が不可能であること
上記の通り自社株に譲渡制限がついていないことが要件ですので、譲渡制限の定款規定がある場合には、定款変更をしておく必要があります。
2 孫への遺贈
物納は、金銭納付や延納が不可能な場合にしか採ることができません。そこで、より確実に自社株を物納するためには、被相続人の孫を養子にして相続させることや遺贈することが考えられます。孫は通常納税資金が十分でないので、金銭納付や延納ができないこととなり、結果として自社株を物納することができることになります。
ただし、物納不適格財産に該当しないことが必要です。
手続面では、物納申請時である相続税の申告期限までに、譲渡制限を外す定款変更をし、株券不発行である場合には、株券発行会社になる旨の定款変更をすること、および、これらの登記をしなければなりません。譲渡制限を外すと当該会社は公開会社として取り扱われるので、公開会社としての金融商品取引法上の開示義務等が課せられることとなります。
(定款案) (株券の不発行) 第○条 当会社は、株券を発行しない。 |
等、物納による譲渡所得等の特例(租税特別措置法40の3)の適用により、物納により譲渡所得税が課税されることはありません。
第6章 会社分割の利用
会社分割の概要については、第5部第1章第3で説明しました。ここでは、会社分割を利用して節税し納税資金を確保する方法について検討します。
現経営者が現役である間に会社分割をし、相続開始後において分割された各々の会社の株式を相続した後継者が一方の会社の株式を他方の会社に売却することによって、その売却益を納税資金に充てることができます。