(あーやっぱり…)
思った通りの相手に溜め息がもれる。
近づく足音。
高鳴る心臓。
(アホか…)
ガラッ
「こんばんは」
『………あぁ。』
わざと気のない返事を返す。
でも見透かされているのか、気にしてないのか、奴はニッコリ笑ってこう言う。
「木佐さん浮気してないっスよね?」
『……さぁ?』
顔には出てないはず。ポーカーフェイスは得意なんだ。
ここではそれが当たり前。
そうでなけりゃ陰間でなんか働けない。
でも…
「顔真っ赤…」
『ストーブのせいだ!!』
近くにあるストーブに手をかざす。
熱い…顔も身体も。
「ここまで江戸の風情にこだわってるのに、ストーブはまんまなんスね。」
『それは苦情か?なんなら番頭に言っとく。』
「これも…簪かと思いきや、ピンなんスね。可愛いっスけど。」
頭のピンをポンポンと軽く触られ、相手は俺の近くに腰を下ろそうとする。
バフッ
「あ、ありがとうございます。」
投げた座布団の上に座る客。
名前は雪名 皇
歳は21歳。
俺の客だ。ただの客のくせに浮気するなだの、他の奴に触らせるなだの、うるさい。
誰も触らねぇよ。
専属になったんだから、雪名以外の客は俺には触れない。
触ったらソイツは出禁になる。
そういう決まりだ。
『茶飲む?』
「あ、俺やりますよ!!」
『お前は客だろ。いいから座ってろよ。』
「じゃあお言葉に甘えて。」
こいつがわからない。
まだ学生のくせに、なんでこんな所に来るのか、なんで俺なんかの専属になったのか、なによりこのルックス。
こんなイケメン、そういない。
こんなとこに来なくてもモテモテで、夜の相手に困る事なんかないだろうに…。
「木佐さん着物似合いますけど、やっぱ女物の着物以外の服も見たいっス。」
『…普通の服着たら、ただのちっさいオッサンだぞ。』
「あははーそれはないっスよ~。」