カバー裏より
『砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書下ろし長編。20数ヵ国語に翻訳された名作。』
高校生の時、あまりの不条理さにちょっとトラウマになった。
今回再読してみたら、トラウマにはならないと思うけど、やはりその不条理は恐ろしい。
砂丘に住んでいるかもしれない、新種の虫を捜しにちょっと立ち寄った海沿いの寒村で、砂に埋もれた一軒家に閉じ込められる男。
最初は当然憤る。
仮にも日本は法治国家なのだ、
当人の意思を無視して監禁したところで、警察が来て見つけてもらえるはずだと希望をつなぐ。
しかし、主人公の男は、灰色のようなつまらない生活を送っていると思える同僚に、失踪を仄めかす様な言葉を残して旅に出たのだ。
彼女あての、遺書と思えるような書きぶりの手紙を机の上に残しさえした。
これでは、本人の意思で姿をくらましたようにとられてしまうかもしれない。
脱出するために、考えられる限りの方法を試みるが、砂は崩れ、彼は外に出ることができない。
蟻地獄にハマってしまったかのように。
そういう状況に陥るのも怖いけれど、元々その家に住んでいる女の、状況をまるごと受け入れる姿も恐ろしい。
「穴の外に出たいと思わないのか?」と聞く男にも、はっきりとした理由を告げることなく、砂に囲まれた生活に不満を持たない女。
世界を知ろうと思わなければ、どんな環境でも人は閉塞感を感じることなく生きていけるのか?
もしかしてそれは、ブラック企業だと思いながらも会社のやり方にならされていく私たちの姿なのかもしれないと思うと、時代を超えて読まれるべき作品だと言わざるを得ない。
