金曜日に休暇を取った同僚がいます。
真面目でおとなしくて、コツコツ仕事をこなす人で、口数はとても少ない人です。
そんな彼ですが、休暇を取る時はパソコンに貼り紙をしていきます。

『本日臨時休業
 ○○業務△△屋(彼の業務と氏名)札幌店』

普段しゃべらない彼なのに、そのユーモアが面白くていつも心の中で「いいね!」って応援していたんです。
そしたら金曜日、その貼り紙に付箋が貼ってありました。

てっきり応援メッセージでも書いてあるのかと思ったら、「いちいちこんな貼り紙必要ですか?」って。
マッピーは激怒した。
これ書いたの、誰だ!

「あ、普段しゃべんないくせにウケを狙ってきたから、なら、もっとしゃべれよって思って」
昔、単語でしかしゃべらなかった男がなにを言うか!と心の中で罵倒しつつ、そういう時は否定するような言い方じゃなくて、もっとこう、応援してますよっていうニュアンスを込めてだねえ…ガミガミ。

休暇を取った人の隣の席の、スーパージユウ人Tさん(集合時間に集合したためしがない)が、「そうだねえ。彼はこの貼り紙を貼ったとき、少し笑顔だったよねえ。いいね!みたいなのをみんなで書いてあげれば喜ぶかもしれないねえ」

そうだ、そうだ。
と言いつつ、仕事にかまけて忘れていた30分後。←冷てぇ
ふと見た貼り紙に、付箋が増えてる。

サインペンで黒々と書かれた「いいね!」から、赤い何かがたらたらと滴り落ちてる…。
これ書いたの誰!!!

真夏の青空のような爽やかな笑顔でスーパージユウ人が言う。
「あ、気に入ってくれた?俺の「いいね!夏バージョン」。涼しくなっていいでしょ?」にこにこ。

いや、これ、どろどろとした怨念しか感じられませんから。
実際嫌がらせかと思ったよ、私。
そんなこんなでギャーギャー騒いでいたら、ほかの人たちも見に来てくれて、職場が少し笑顔になって。
月曜日の朝、そんな話を彼にしてあげようと思います。
「いいね!夏バージョン」は、決して嫌がらせの付箋じゃないよ、と。


本日の読書:Xのアーチ スティーヴ・エリクソン

Amazonより
『トマス・ジェファソン。独立宣言起草者として、人間の自由と尊厳を謳い上げた、後のアメリカ合衆国大統領は、自らは黒人奴隷を所有し、女奴隷を愛人とする矛盾に満ちた人間だった―フランス革命直前のパリに滞在するトマスは、アメリカに帰ろうとする、彼の美しき奴隷で愛人のサリーを連れて。だが、サリーにとって、トマスとともにアメリカへ帰ることは、再び彼の奴隷、所有物の身となることであり、パリに残れば、自由人の黒人でいつづけることができる。ここ、歴史上の過去とありえたかもしれない未来との交点Xから、愛と快楽、自由と隷属をめぐる果てしのない物語が幕を開ける…18世紀アメリカとパリ、どことも知れぬ教皇庁支配下の宗教都市とそのなかの無法地帯、20世紀末のベルリンと大震災に見舞われ廃虚と化したLA…過去、現在、未来、時空を超え、くりかえし人生を生き直すトマスとサリー。そしてサリーに魅せられ関わりをもつことになる男たち。1999年12月31日と2000年1月1日のあいだに存在する、歴史上から消失した一日、Xデーに物語は流れ込んでいく。壮大なヴィジョンで描かれる哀切なラヴ・ストーリー。』

トマスとサリーのラヴ・ストーリーなら簡単だった。
白と黒。支配と隷属。規律と自由。
相対するものが惹かれあい、内包し、反発し、消滅する。それだけ。
生まれ変わっても惹かれあい、内包し、反発し、消滅する。だけだったかもしれない。

愛しているから全てを支配したい。または全てを委ねたい。
愛しているから全てのことから解放してあげたい。または全てのことから自由でありたい。

しかし、モナが、ウェイドが、エッチャーが、サリーの娘ポリーが、ゲオルギーが、時間も空間もランダムに、現れては消えていき、消えたはずなのに現れる。
アメリカ人作家エリクソン(本人?)すら、登場してはさくっと殺されてしまう。
なに、これ?
誰が、何に、どう係わっているの?

消失したところから始まる存在。
娘より幼い母。
ひと廻りして最初に戻ってしまう話は、けれど同じ最初にはならず、メビウスの輪のようにねじれていく。

これはマジック・リアリズムなの?
それともSF?
科学と詩は隣同士にあると湯川博士が言うのなら、純文学とSFも隣同士にあるのかもしれない。
日本の純文学では見かけない構造だよね。
強いて言うなら古川日出男?←彼が純文学なのかもよくわかりませんが

一ひねりして最初に戻った物語が、もう一度巡ってきたときはひねりが二つになり、さらにもう一度…。
どんどんひねりの間隔が短くなってきたとき、それが消失した一日Xなのか…な。

“時間の虫食い穴の向こう側に何が現れるか。それは科学の領分であるのと同じ程度に、想像力の領分でもある。”

Xの彼方に救済はあったのか?
空漠の中にも、救済はきっとあったと信じたいのだけれど。