ShortStory.477 年の道連れ | 小説のへや(※新世界航海中)

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 1話完結の短編小説を書いています。ぜひご一読ください!
  コメントいただけると嬉しいです。無断転載はご遠慮ください。

 

 あけましておめでとうございます!!

 1月も半ばの更新になってしまいましたが、

 ここから始めていこうと思います。

 それでは、今年もよろしくお願いします!!

 

↓以下本文

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「来年もよろしくお願いいたします」

 

 この言葉に胸が靄ついた。

 

 普段はすべて忘れて、日常に振り回される毎日なのだが、

 年末は事実を突きつけ、無言の圧力をかけてくる。

 楽しい、苦しい。そういった感情とは別のもの。

 恐怖とはまた違う。何かぽっかりと空や地面に生じた

 穴のような。得体のしれない何かである。

 これは虚無感なのだろうか。でも、私は今、

 1月以降の計画を立てているし、手帳に書かれた

 予定を見ながら人間らしい感情を浮かべているではないか。

 

 あるかもしれないし、ないかもしれない。

 あるのであれば準備が必要。信じるというほど大げさなものではないが、

 きっとあるだろうと仮定して計画を進めるほかないのだ。

 やけになって何もかも投げ出した後、今年もよろしくだなんて

 周囲に受け入れてもらえそうもないし、そもそも自暴自棄になるほど

 豪胆な性格もしていない。消去法の結果、楽観視している。

 正直、私は大丈夫だろうと思う気持ちもある。

 根拠はない。しかし、数千人にひとりという低確率に当たるほど

 自分は特別な人間ではないという自負はある。

 

 手帳から顔を上げ、時計を見た。

 私は無言で椅子から立ち上がり、リビングへと向かった。

 テレビをつけると、ちょうど目的の番組が始まったところだった。

 お気に入りの番組なのだが、世間では不人気らしい。

 視聴率も壊滅的に低いと、何かで見たような気もした。

 噂では半期の放送枠も最後まで使い切らぬまま、打ち切りを

 迎えるだろうと言われている。私が好くか否かなんて関係ない。

 そんな行く先の暗い番組だが、私は欠かさず視聴していた。

 

 番組の最後、次回は来年1月18日放送予定であるとのテロップが映った。

 どうなるかわからないな。そんな風に思いながらも、

 私はその日にちを頭の片隅に記憶した――

 

 

 

 

道連れ

 

 

 

 

 情報統制がなされているのではないか。

 そんな風に思ったことがあった。こんな大きな現象であるのに、

 大騒ぎしたり、混乱したりしないのがあまりに不自然に思えたからだ。

 確かな現象であるのに、誰もその話題について言及しようとしない。

 しかし、誰もが頭に思い浮かべ、意識していることだろう。

 もしかしたら自分かもしれない、と。

 そうやって想像せずにはいられないくせに、

 まさか自分が選ばれるはずはないだろうなどという

 気持ちだけで安心できてしまう。その場限りの安堵でも十分。

 これは人間の強さなのか、弱さなのか。

 

 この国では、昔から年越しの際に“道連れ”という現象が起こる。

 対象になった人は、今年に道連れにされて、次の年に

 進むことができないという現象である。誰がどんな理由で選ばれるかは

 わからないが、良い子にしていないと道連れにされるとか、

 人の恨みをかっていると道連れにされるとか、様々な話が

 文化として残っていて、子供の教育にも使われてきたらしい。

 小さい頃は親にそう言われてよく怖がったものだった。

 悪いことをした後に脅されるようにそう言われ、泣いて謝った

 記憶がある。世界のみんなから置いてけぼりを食ってひとりになるなど、

 お前は死ぬと言われているのと同じような気がしていたのだ。

 

 失踪とは異なり、道連れに選ばれると、その人に対する記憶だけを残して、

 その他すべての痕跡や所有物、戸籍等の記録が消えてしまう。

 書籍、新聞、インターネット上の情報もまた同じである。

 魔法のようにすべてが消えてしまうこの現象は、科学的に説明がつかず、

 超常現象だと判断せざるをえなかった。神や悪魔の仕業だという者もいる。

 人々の記憶からはその人の情報は消えないようだ。

 もしそれさえも消えてしまったのであれば、本人がいなくなった

 という事実さえ認識できなくなってしまう。

 実にうまくできている。実にうまくできた超常現象だ。

 

 私が中学生の時だった。

 自分の周りで初めて道連れになった人間が現れたのは。

 それは、私の隣のクラスの男子だった。何度か話をしたことのある

 だけの関係だったが、ひどく衝撃を受けた。今まで迷信だと思っていた

 道連れがこんな近くで起こったのだから、しばらくは信じられなかったし、

 都合の悪いものを隠すために道連れでいなくなったことにしてしまえと

 なったのではないのかと勘繰ったりもした。

 しかし、彼の話題はそこまでだった。死んだわけではないし、

 もう戸籍からは何もかもが消えてしまっているため、葬式をあげるわけにも

 いかない。ただ、ご両親が泣いていたのは今でも覚えている。

 

 昔のことを思い出しながら考えていたら、すっかり時間がたってしまっていた。

 それもしょうがない話。今日は12月31日なのだ。

 もしかしたら、すでに年を跨いでしまっているかもしれない。

 湯船につかっていた私は立ち上がり、浴室を出た。バスタオルで体をふき、

 リビングへと向かうと、ちょうど時計の針が12時を示すところだった。

 いや、あるいは示したところだった。秒針が動いていなかった。

 こんな奇跡的な電池切れか故障など経験したことはない。

 とりあえずと、テレビの電源を入れると砂嵐が映し出された。

 黒と白のノイズが画面いっぱいに広がっている。どのチャンネルもだ。

 

 スマホを手に取って、電話をかけてみるがつながる相手はいない。

 部屋着のまま玄関を飛び出した。

 風呂上がりの肌に、夜の空気がさすように冷たく感じられる。

 白い息を吐きながら周囲を見回す。街灯がついているが、

 他の家の電気はついていない。人の声がしない。気配がない。

 気がつけばアパートの階段を降りて、近くの通りまで出てきていた。

 車が走っていない道を信号機が黙って見下ろしている。

 

 鼓動が高まり、血の気が引いた。

 そんな状態で私は思わず笑ってしまった。

 まさか私が選ばれるなんて、と。

 可能性はあるはずなのに、自分だけは大丈夫だろうと

 思っていた。自分が認識しているよりも強く、そう思っていた。

 でなければ、こんなに衝撃を受けることもなかった。

 

 自分が選ばれるとは思っていなかった。

 来年どうなるかわからないな。そんな風に思っていたあの胸の内は、

 なんだったのか。そんなものは当然、ただのポーズだったのだ。

 でなければ、こんなに震えることもなかった。

 

 誰もいない。

 私は「誰か!」と、唐突に叫んだ。

 

 今頃皆は「あけましておめでとうございます」などと言い、

 「今年もよろしくお願いいたします」などと挨拶をしているのだろう。

 私は取り残されてしまったのだ、この年に。

 過去になった「この年」に道連れとして選ばれたのだ。

 世界に見放されてしまった。それも、風呂に入っている間に。

 こんな映画や漫画のような話があるだろうか。

 

 私はどうなってしまうのだろう。

 もう二度と元の世界には戻れないのだろうか。

 何から何まで元と瓜二つの世界で私はそう思った。

 当然進めるだろうと思っていた来年へ進めなかった。

 当たり前だったことが、唐突に途切れてしまった。

 死んではいない。いや、心臓は動いている。

 でも、生きているといえるのだろうか。

 心の内に浮かんでくる疑問に、答えてくれる人はもういない。

 

 道の向こうは夜空につながっているかのように真っ暗だった。

 来年という“私のいない世界”の背は、もう見えなかった――

 

―――――――――――――――――――――――――

<完>