ShortStory.454 騎士団長探し | 小説のへや(※新世界航海中)

小説のへや(※新世界航海中)

 1話完結の短編小説を書いています。ぜひご一読ください!
  コメントいただけると嬉しいです。無断転載はご遠慮ください。

 

 おつかれ平成! では、また令和に――

 

↓以下本文

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「グランカルはどうした」

 

 王の間には、多くの使用人たちが忙しなく出入りしている。

 国王もまた、式に臨むための衣装に着替えていた。

 きらびやかな金の装飾が施された服は、城下で有名な

 仕立て屋に作らせたものらしい。大きな赤いマントも

 身分にふさわしく華美なものである。傍らの大臣が答える。

 

「それが、まだ見つかっていないようです」

「何だと。城下まで探したのか!?」

 

 鬼の形相で訊く王。その声が部屋中に響き渡った。

 式に参列すべき男がひとりいないという。

 新国誕生において一役買った騎士団長である。

 英雄と呼ばれ、知らぬ民はいないほどだった。

 その彼が、城から忽然と姿を消したという。

 

「はい。城も街も隅から隅まで探させたのですが、

 他の騎士たちも含め、どこにもいないということでして」

「王が変わり、新たな時代を迎える大事な時に、

 先の大将軍が不在など、決してあってはならぬ事態。

 死ぬ気で探せ! 式が始まる前に、必ず城へ連れて参れ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長。本当にこれでよかったのですか?」

 

 唐突にアトラーが訊く。

 

「式には、もう間に合いませんよ」

 

 荒れ果てた道。馬も駆けられぬほどの砂利と穴。

 王都の賑やかな声もここまでは届かない。

 歩くのは数人の王国騎士たち。彼もまたその一人である。

 前を歩くグランカルは、振り返ることなく口を開いた。

 

「元より戻るつもりはない」

 

 乾いた風が吹く。周囲には白っぽい土が舞い、

 家屋が所々に建つものの、屋根も壁も薄汚れていた。

 王都とは比べ物にならないほど周囲は寂れている。

 男も女も皆、布を巻くだけの簡単な衣服を着ていた。

 

「……でしょうね」

「不満があるなら、帰ればいいでしょう」

 

 ミュロスは腰にさした剣の柄を指で叩きながら、アトラーの方を見た。

 金色の長い髪から覗く彼女の目は、睨んでいるようにもみえる。

 

「別にそういうことを言ってるんじゃない。

 僕も戻るつもりはないよ。団長の考えに賛同してついてきたんだ。

 不満なんてある筈がない。まあ、不安はあるけれど」

「そうよね。式に臨むべしと命を受けたのに、それを反故にして

 王都をとび出しているんだから、ただでは済まないわ。

 団長は何しろ国の英雄だから、王の叱責で済むでしょうけど、

 貴方の場合は、職を辞さざるを得ないかもしれないわね」

 

「脅すなよ。涼しい顔で言っているけれど、君も同じだぞ」

「ええ。同じね。私はいいのよ。騎士を辞めたら食堂でも開くわ」

 

 冗談ともわからない事を言いながらミュロスは笑った。

 アトラーがため息をつく。

 

「大臣のバタードも今頃大変だろうな。

 きっと、王に詰め寄られて蒼ざめているに違いない。

 騎士団長はどこだ、探して来い、とね」

「私たちが誰に見つかることなく城を出られたのは

 彼のおかげ。そんな事がばれたら、彼こそ追放ね。

 でも心配いらないわ。彼、貴方よりも随分頭が切れるから」

 

「比べなくてもいいだろう。余計なお世話だ」

 

 一行はそれぞれ大きな荷物を運んでいた。

 おおっぴらに行動できない分、馬は使えない。

 しかし、団長と力持ちのコルキスだけで、

 軍馬一頭分の荷物を運ぶことができていた。

 中身はすべて食料や薬品などの支援物資である。

 

「王都に戻ったら、私が王へ許しを請おう。

 お前たちは王国騎士団に必要な人間だ。追放などさせん。

 もちろん、バタードもな」

 

 焦土の地ヤッケナン。かつての名は花の街。

 緑豊かな領地も、一度の戦争でがれきの土地と化した。

 前王家の残党が反乱を起こしたことがきっかけで、

 数年にわたって戦場となり、爆弾が使われたことで

 戦いに無関係な人間の多くが命を落としたのだ。

 今もまだたくさんの人が、砂の下に埋まっているという。

 人命も文化も失われ、街の存在そのものが崩されていた。

 

 現在は王都からの支援を得て復旧活動が勧められているが、

 依然として住居は少なく、その殆どが小屋のような代物である。

 若者の多くは街を去り、昔から住む民だけが暮らしていた。

 戦火が鎮まってきた今のこの世の中において、

 ヤッケナンは完全に “取り残された” 街になっていた。

 

 離れた王都では、もう話題にあがることもなかった。

 以前はあれだけこの地に執心し、民を案じていたあの王さえ、

 今ではこの街の名前すら口にしなくなっていた。

 

 街の者は言う、『戦争はこの街の時計を止めた』 のだと。

 忘れられるのを待つだけの “過去” の地なのだと。

 

 街長の家も粗末な小屋だった。

 嵐が来れば、屋根は剥がれてしまうだろう。

 グランカルが戸を叩くと、中から男が顔を出した。

 彼は驚きに目を見開くと、咳き込んだ。

 

「これはこれは、グランカル様。今日は新たな王が生まれ、

 新たな時代を迎える日。王都では式典が行われると、

 そう聞いております。何故、このような場所に……」

 

 皺の深く刻まれた顔で街長は言った。

 最近では数人の兵士が物資を運びに来るだけで、

 復興支援とは名ばかりのただの配給作業になっていた。

 そこへ王国騎士たちがやってきたのである。

 小屋の周囲には噂を聞きつけ人が集まってきた。

 騎士たちは大きな荷物をまとめて置くと、団長の後ろに並んだ。

 

「時代が変わろうと、関係ありません。

 この街はまだ支援を必要としている」

 

「……この街は、もう捨てられたんだ」

 

 周囲に集まった者たちの中から、そんな声が飛んだ。

 誰だ、と街長が怒鳴った。しかし、その勢いも続かなかった。

 力なく口を噤んでから、馬鹿な事を言うなと呟いた。

 否定するだけの気持ちはなかった。彼の胸の奥にも

 同じ言葉が仕舞われていたからである。

 それを認めぬことだけが、街長としての務めだった。

 

「そんな物資なんて、手切れ金か何かのつもりか!」

「やめんか。黙れ。王国の騎士に向かって、失礼であろう!」

 

 続く声に、街長が大声を上げた。

 グランカルは群衆の方へ向き、口を開く。

 

「我々はこの街を忘れてなどいません」

 

「口だけなら何とでも言えらあ!」

「他人事なんでしょう。過去の話なのよ、あなたたちにとって!」

「街はまだこの有様だ。綺麗な街に住むお前たちに何がわかる!」

「王都の連中がこの街を何て呼んでいるか知ってるか――」

 

 老いも若きも男女も関係なく、怒声が上がる。

 その声を遮るようにして、グランカルが叫んだ。

 

「国が新たな時代を迎えるのと同じく、

 この街も新たな時代へと向かうのです」

 

 群衆が静まり返ると、彼は言葉を続けた。

 

「そのために、今日私はここへ来たのです」

 

 強い日差しも忘れて、皆がそこに立ち尽くしていた。

 時が止まったその地にも、風が吹く。

 

「この街も……新たな時代へ、行けるでしょうか?」

 

 誰もが言葉を発せぬ中、彼の背後で街長が尋ねた。

 震えた声。乾いた目に、久方ぶりの涙が滲んでいた。

 

「我々が」

 

 グランカルは振り返り、頷き、彼をそのまっすぐな目で見た。

 

「責任をもってお連れいたします――」

 

―――――――――――――――――――――――――――――
<完>