◎前回のお話




部活を決めるまでの時間は1週間くらいの期間しかなかった。

部活に入るための提出物を出す期限が迫っていた。


息子は友だちに誘われるがままサッカー部に入るつもりだったが

私はギリギリまで個人で出来る部活を推した。

『剣道の方がいいんじゃない?

Cくんも剣道なんでしょ?Dくんも剣道部だってお母さんが言ってたよ?』


『うーん。やだ!サッカーがいい。』


全く聞かない。


『じゃぁ、やってもいいよ?

でもなにがあっても辞めない?』


『辞めない!』

私は大きなため息をつく。


『あのね?お前には少しだけど障がいがあるのはわかってるよね?』


『うん。』


『団体プレイになった時、誰も守ってくれないかもしれないよ?』


『…うん。』


『この障がいをお前に与えてしまったのはお母さんの責任かもしれない。ごめん。

でも、お前には笑って生きていって欲しいの。

このハンデと一緒に上手に生きていって欲しいの。』

私は息子の目を見て話した。

息子も私の目をじっと見つめている。

『でもやりたい。

僕は走ることが好きだから…

剣道も弓道も走らない。

だったらサッカーでいっぱい走りたい!』


『分かった…。

じゃぁ、紙に【サッカー部に入部します】って書くからね?』


『うん。』


『それともう一つ。

自分でやると決めたんだから絶対に諦めないこと。

辞めたいって泣きついても、嫌なことがあって苦しくてもお母さんは手を出さないよ?』



『分かった!』


『よし!』


私は紙に記入してハサミで切って息子に渡した。


息子は嬉しそうにそれをカバンに入れるため部屋に戻った。


私はテーブルに肘を付き頭を手に乗せた。


『はぁ…』


出るのはため息ばかりだ。


息子の前ではなるべく前向きなことを言うようにしていた。


だけど現実は…厳しい…。


介護の仕事をしているといろいろなトラブルを目にする。

半身不随や少し歩行困難くらいの利用者の中には認知症のある方への理解がない方もいる。

『こっちに来ないようにしてよ!』

と言われることもある。


その度、私は説明をする。

『すみません、席の配慮はします。

でもあの方も好きで認知症になったわけではないんです。

何かあればまた言っていただけますか?

出来ればお互い気持ちよく過ごしていただきたいので我々も良い対応を考えていきますね?』

個々に合った生活を

個々に合った生き方を


でもそれはあくまでも私の支援の仕方で


じゃぁ学校ならどうなる?


正直不安しかなかった。



次の日息子は部活入部の紙を持って出掛けた。


それから数日、なんだか様子がおかしい。


やけに苛立ったり、焦っていたり

家の中で落ち着かないのだ。


私の仕事が休みで朝から洗濯機を回しながら息子の通学時間を過ごしていると

『あーーー!!ない!!』

と、いつもなら出さない大きな声でバタバタと家の中を走り回る。

『どうしたのよ!そんなに騒いで。』


『持っていくものがない!』


息子の部屋は散らかっていて


『これじゃ見つから無いんじゃない?』


と言うと


言葉にならない言葉でブツブツと話し急に涙を流した。

『どうした!?』

私はびっくりして息子の肩を掴んた。


『いいよ!』

と、私の手を振り払う。


部屋のドアを力いっぱい締め

玄関のドアも『ガシャン!』と音をたて


『いってきます』も言わずに出かけていった。


息子の様子を窓から見ながら明らかに中学に入ってから変わった息子の様子を見て不安になった。


今の…明らかにパニック状態だ…。


中学生になって1週間。

ガラッと変わった環境…




息子の心が悲鳴を上げているようだった。