◎前回のお話。
『何でって……心配だったからでしょ?』
『はぁ?もう少しゆっくりしてくれば良かったじゃん。
どうせ生活費無いんだし。』
キッチンを見ると自分で自炊をしていたようで、炊飯器の中にはご飯、ガスコンロの上には味噌汁が入った鍋があった。
『とりあえず座って。』
『は?』
『話!』
旦那は私について部屋へ移動し床に座った。
それを見届けて私も座る。
『結局、8万はどうしたの?』
『使った。』
『何に?』
『パチンコ。』
『何で?』
『腹が立ったから。』
『腹立ったら生活費パチンコに使うの?』
旦那は黙り込んだ。
このまま話したところで先には進まない。
話をずらす。
『じゃぁバイトは見つかった?』
『うん。コンビニ。』
『出来るの?』
『やるよ。』
話しながらイライラもしたが呆れることの方が多かった。
『そう。じゃぁ頑張って。』
頑張ってしか言えない。
頑張らなきゃ家庭が崩壊するんだから…
この頃の私には『離婚』はあくまでも切り札であって、本気でそうしたいなんて思っていなかった。
いろいろあるがまだまだ好きだった。
信じていたかった。
家族はそんなに脆いものじゃないって。
喧嘩したって明日には仲直りしてまた一緒にご飯を食べるんだって…。
次の日旦那は仕事に出掛けて行った。
また私は息子と2人過ごす。
久しぶりの我が家。
特に変わったところもなかった。
強いていうなら金がない。
あるのはお米のみ。
『よし!買い物しようか!』
息子を連れ近所のスーパーへ行く。
ちょこちょこ歩きの息子と手を繋ぎ売り場を見て回る。
カゴに入れたいものはたくさんある。
でもまずは『少ないおかずでたくさん食べられるもの』だ。
安売りの玉子、玉ねぎなどの常備菜、鶏の胸肉やセール品の肉や魚。
合計金額1,000円以下で1週間食事を作るつもりで買う。
夕方お母さんから電話が来た。
『ちょっとあんた!大丈夫なの?』
『うん!貧乏も勉強さ!きっと役に立つ日が来るよ!』
すると母は笑って
『そうだね!やってみろ!!』
『うん!ありがとう!!』
受話器を置き夕食の用意を始めた。
今ならあの時の母の気持ちがよく分かる。心配で心配で仕方なかったろうな…って……
その日は胸肉を小さく切って親子丼にした。
玉子もたくさん使えないから4つ。
つゆを多めにしてご飯にかける。
お味噌汁は大根。大根の皮はきんぴらにした。
旦那が仕事から帰ってきた。
ドアを開けたらいつも通り
『おかえり!ご飯だよ!!私が嫁で良かったね!!ほら食べよ!』
私はただ普通に暮らしたかっただけ。