元ボクサー・広岡仁一(佐藤浩市)は、偶然、飲み屋で心が折れたボクサー・黒木翔吾(横浜流星)と出会う。翔吾の希望で拳を交えると、クロスカウンターを受け、翔吾はダウンを喫する。これに衝撃を受けた翔吾は、ボクシングを教えてほしいと広岡に頼み込む。最初は頼みを断った広岡だったが、かつてのボクサー仲間・佐瀬(片岡鶴太郎)と藤原(哀川翔)に説得され、翔吾を迎え入れる。練習を積んだ翔吾は実力の片鱗を見せ、広岡がかつて所属したジムの有望株・大塚(板東龍汰)と世界戦を賭けた一戦を交え勝利する。この試合で眼を負傷した翔吾は、広岡に世界戦を止めるよう言われるが、頑なに固辞。迎えた世界戦。翔吾は、チャンピオン・中西(窪田正孝)と一進一退の攻防を繰り広げる……。
************************

「ボクシング映画に外れ無し」とは映画界では広く知られた言葉であるが、本作もその言葉どおりの秀作と言えよう。
元ボクサーの広岡と現役ボクサーの翔吾の生き様に、彼らを取り巻く登場人物達の人生を絡めて描き、見応えのある人間ドラマが繰り広げられ、見る者を強く惹きつける力量が本作にはある。
“たった一度のチャンス”
これが翔吾と広岡が共通して背負っているものだ。
眼を負傷した翔吾は、顔面に強いパンチを受ければボクサー生命が絶たれる危険性をはらみ、重い心臓病の広岡も世界戦にセコンドとして携われるのは、これが最初で最後かもしれない。
たった一度のチャンスという共通の定めを持つ2人の男の生き様が、静かにしかし力強く胸に迫ることが、本作最大の魅力と言えよう。
ボクシングの試合のシーンはリアリティがあり、画面に釘付けとなった。
世界戦よりむしろ、その前哨戦の方が迫力があったかも知れない。

世界戦の不必要に長いスローモーション・シーンと広岡の姪・佳菜子(橋本環奈)と翔吾が惹かれ合うシーンが割愛されているなど指摘すべき箇所はあるが、間違いなく必見の作品だ。
 

☆☆☆☆☆(星5つ・満点)【8月27日観賞】