荻上直子監督の最新作。 平凡な主婦・須藤依子(筒井真理子)は、夫・修(光石研)と息子・拓也(磯村勇斗)と三人暮らし。ある日、修は庭の花に水をあげている最中、忽然と姿を消す。寝たきりの義父を看取ると、依子は緑命会という水を信仰する新興宗教にのめり込み、祈りをささげては勉強会に勤しむ。しかし、突然、失踪中の修が帰ってきて、自分は癌に罹患しており、保険不適用の高額な薬を投与したいと告げる。これを機に彼女の心境に変化が現れ、夫の存在が鬱陶しくて仕方が無い。

ある日、福岡に就職している拓也が彼女(津田絵理奈)を連れて家を訪れる。彼女の存在を知らなかった依子は、激しく動揺する。拓也の彼女は極度の難聴で言葉の発音に難があったが、拓也は結婚を考えていると依子に伝える。翌日、依子と彼女の二人は、東京見物に出かけるが、その際、依子は彼女に拓也と別れてほしいと告げる。すると彼女は、ショッキングな事を依子に話し出した…。 

 

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 荻上監督の前作「川っぺりムコリッタ」のほのぼのムードから一変、今作は高い緊張感が張り詰めたスリラー感満載の重厚な人間ドラマだ。 

タイトルにあるとおり、依子をはじめとする登場人物たちが皆、大なり小なりの「波紋」を水面に広げる。誰もが知るとおり、水面に広がったいくつもの波紋は、ぶつかり合い綺麗な波形が見るも無惨に崩れていく。 

ここに繰り広げられる登場人物たちの思惑は激しくぶつかり合い、現代を生きる我々を取り巻く、夫婦、親子、職場、宗教、婚姻、差別などにおける問題点をあぶり出しているのがすごい。 登場人物たちが発する波紋が見事なまでに崩れていく様は、あたかも現代の人間社会を象徴するようだ。

 取り扱うテーマは重いが、時折、笑いを誘うシーンも散見される。 荻上監督の脚本は、緊張感とそれを弛緩させる笑いのバランスが絶妙で白眉。

 本作は、彼女のキャリアハイの作品といっても過言ではないだろう。 キャストも素晴らしく、鬱屈を体中に溜め込む主婦を筒井真理子が好演。光石研、キムラ緑子、木野花は安定の演技だ。

 特筆すべきは拓也の彼女で難聴の女性を演じた津田絵理奈。彼女は実際に耳が不自由だそうだが、見事に観客を引き込む。 湯島天神の階段で、別れを要求する依子に言い返す彼女の表情には恐ろしさを感じた。

 

☆☆☆☆☆(星5つ・満点)【5月28日観賞】