ある地方都市の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、その介護センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。しかし、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士であった。検事・大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてから自宅で亡くなった老人が40人を超え、しかも、老人たちの死亡日は斯波が非番の日であることを突き止めた。真実を明らかにするため、斯波に詰問する大友。すると斯波は、自分がしたことは「殺人」ではなく「救い」だと主張した…。
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老人介護の問題を正面から真摯に描いた秀作。
軽々しくエンタメ色のある娯楽作などとは間違っても言えない、深く重い作品だ。
高齢化社会の問題がベースとなっている作品は、「PLAN75」「茶飲友達」などが最近では挙げられ何れも秀作であるが、本作もそれらに肩を並べるほどの完成度を誇る。
近い将来、間違いなくこの国を襲う高齢化問題は、多くの人々の生活に深く影を落とすわけだが、本作は老人介護の側面を描いており、観る側の生活状況により作品の受け取り方は千差万別だろう。
ただ、間違いなく言えることは、人は誰でも老いていくことは避けられず、斯波が言う「穴の中」に落ちた者たちに対し、この国は何をしてくれるのかということについて、今一度考えるきっかけを本作は我々に与えてくれたということだ。

主演の松山ケンイチと長澤まさみは、これまでのキャリアの中でもベストといえるほどの演技だが、観客の目を画面に釘付けにさせる名演を見せたのは柄本明であろう。
鬼気迫るとは、まさにこのことだ。

 

☆☆☆☆星(星5つ・満点)【3月24日観賞】