第924話 2019.9.25

 

 

私立神戸女学院中学部・高等学部

 

 高等学部長(校長)が林真理子様(2019年現在)という所からも、凄い学校であることがうかがえる。

 

 1学年約140名の小規模な中高一貫女子校。1873年に、アメリカから派遣されたプロテスタントの女性宣教師グループが作った私塾を起源とする。

 

 毎朝8時30分に全校生徒・教職員がチャペルに集合し礼拝を行う。そして、毎週一つ、新約聖書か旧約聖書の言葉を暗誦できるようにしている。

 

 関西では「女の灘校」と呼ばれ、卒業生の過半数が、東大・京大・国公立医学部に進学しているのは間違いない、らしい。 

 「らしい」と言うのは、この学校は自校の進学実績をマスコミはおろか、在校生と保護者に対しても一切公表していないからである。その理由は、HPにも格調高い言葉で記されている。

 

 戦前から一貫して、英語の授業は原則としてオールイングリッシュで行われている。英語教育の超先進校でもある。

    同校HPから引用

中学部3年間の英語の授業では、ネイティブ教員も日本人教員も原則として日本語を使いません。生徒たちは、あたかも母国語のように英語を学ぶ環境に置かれます。中学1年生では、まず徹底的な発音指導にはじまり、ペアティーチングでネイティブ教員と日本人教員が交わす対話を通して、英文とその意味を理解し、いちいち日本語に置き換えることなく自然に英語を身に着けていきます。2年生、3年生になると、本校伝統の独自のシラバスに従い、既習事項に少しずつ積み上げていくようにして、さらに高度なリスニング、スピーキングを身につけていきます。加えて自主教材プリントを用いてリーディングやライティングの力もつけていきます。中学部3年間で培われた4技能は、その後の学習の基礎となります。中学卒業時点で実用英語技能検定2級、準2級に合格する生徒が大勢います。
高等学部においても、音声面を重視する方針には変わりなく、各学年週6時間のうち、2時間は、専任の北米ネイティブスピーカー単独のオーラルコミュニケーションの授業があります。単なる日常会話にとどまらず、社会問題や文化比較などのテーマをとりあげ、映像や音声の教材を活用して学び、また調べたことや意見を発表します。
週1回2時間連続の選択授業では、英語(日本人担当リーディング、ネイティブスピーカー担当オーラル)以外にも、フランス語、ドイツ語を学習することができます。少人数クラスで、生徒の希望もとりいれ、きめ細かく自由度の高い言語活動を行なっています。

    以上

 

 昔は卒業生のほとんどが系列の神戸女学院大学に進学していた。そうして、学校としては、今まで、進学実績を上げようと考えたことも何かをしたことも全くなかったにもかかわらず、入学してくる生徒たちの質と意識が自然に変化してきたことによって、いつの間にか「超進学校」に変貌していったという幸せな学校である。

 

 

 ところで、以前の校長先生がHPに掲載したメッセージは見事なものであった。私が今まで読んできたこの種の文章の中で最高のものだと思う。以下全文を紹介する。(もっとも現在の校長先生の文章も十分素晴らしいのだが。)

 

  【引用開始】

 中学生高校生の六年間は、子供から大人になる過渡期、つまり思春期青年期にあたりますが、この時期の特徴は何でしょうか。光をあてる視点によって見方は違いますが、私の経験からは「迷い」という言葉がまず浮かびます。八方に道が分かれる「米」と、進む意味の「」(しんにょう)の会意形声文字で、分かれる道が多くどの道に進むか交差点でまようことを表しています。

 自分の力、才能、性格、容貌を見ては、こんな自分でも生きて行けるのかと悩み迷い、人と比較しては有頂天になったり自信喪失で落ち込んだり、それも一日の中で何回か繰り返す、とかく振幅の激しい不安定な時期を過ごしました。もちろん大人になった今もよく迷いますが、価値基準が堅くなってきて判断が早く出来るようになったかな、と思っています。

 

 つまり中高時代は、正しく迷う事を身をもって学ぶ時期だと思います。ドイツの文豪ゲーテは、こう書いています。「君が最善を望むなら、自分だけの力に頼まず、先人の感覚に従いながら、ともに迷ってみることだ。」と。正しく迷わなければ、よく生きることもできず、よく死ぬことも出来ないのです。

 

 中高時代を月に喩えるなら、三日月で、大人は半月でしょうか。ともに神の前では未熟であり、人間とは満月に向かって成長する存在です。そして、共に「先人の感覚」に頼み、正しく迷い続けるのです。

 

 神戸女学院中高部では、毎朝八時半から、900余名の三日月と40余名の半月が一堂に会して、神様の前に首を垂れ、聖書の神の言葉という「先人の感覚」を聴いています。正しく迷うために、正しく生きるために、正しく神を礼拝し、人に社会に奉仕するために。

   【引用終了】

 

 

 「中高時代は、正しく迷う事を身をもって学ぶ時期」。

 この言葉ほど、見事にアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)の本質をついたものは、めったにないと感服する。

 

 また、HPには次の文言も記されている。この毅然たる態度は、十二分に尊敬に値するものだと考える。

 

  【引用開始】

 神戸女学院では進学実績を公表していません。卒業生の進路状況はもちろん把握していますが、数値化して公表することはしていません。それは大学進学を教育の主たる目的としていないからです。大学受験の結果は、生徒一人一人が自己実現のために努力した成果と考えており、その結果の公表は、必ずしも学校のめざす理想を具体的に示すものではないと考えています。神戸女学院の授業で培われる学力は、「大学受験にも耐え得る学力」であって、「大学受験のためだけの学力」ではないのです大学への進学は神戸女学院中学部・高等学部の教育の結果であって、決して目的ではないという姿勢で日々の教育に臨んでいます。

 しかしそれは自由放任の教育ではありません。中学部のあいだは、基本的な学習習慣を身に付けさせ、高等学部では、発展的・主体的な学習態度を身に付けさせます。また、一人一人の生徒に合わせて、その生徒の学習を支えていきます。神戸女学院大学への進学も選択肢のひとつとして在学中から情報を提供しています。希望者には大学の授業を受講する機会も与えています。

  【引用終了】

 

実に素晴らしい見識と矜持である。

 

神戸女学院公式HP

 

*2016年5月 同校の内容を紹介する本が刊行されている。

『「才色兼備」が育つ神戸女学院の教え』

林真理子・内田樹著  中公新書ラクレ