「青田道」(あおたみち)
加 藤 高 穂
遠足の声渡り来る青田かな
老農の紫煙くゆらせ青田道
宝満川へ向って自転車を走らせると、植えつけられたばかりの田圃の早苗が、吹き過ぎる風に、涼しげに揺れていた。これら小さく幼い苗も、生長していく折々、色んな事を経験していくのだろう。
その時、ふっと懐かしさと共に心に浮かんだのは、小学五・六年生時代、クラス担任をして下さった若くはつらつとした故千葉胤昭先生の姿だった。放課後のひととき、生徒と一緒にドッジボールやソフトボールで汗を流したり、休日には能古島遠足に連れて行って下さったりと、小学校最後の二年間は、おおらかで心楽しい学校生活を過ごさせて頂いた。
戦後十年前後のことである。一クラス50名前後の大所帯であったが、先生の人柄の影響だったのだろう。教室の空気は和やかで、明るく伸び伸びしていた。
もちろん、友だち同士も仲がいい。夏休みには真っ黒に日焼けして日がな一日、百道の海で遊び暮していたのを思い出す。
そんな少年時代の心象風景のひとつであり、いつ、どこでと言われても、ハッキリしない。ただ、昨日のことのように、心に甦ってくる田園風景を詠んでみた。
幼い苗が生長していく姿に優しいまなざしを送り、紫煙をくゆらせる農夫。大きく広がる田圃の向うからは、遠足の子等の楽しげな声が風に乗ってくる。
私どもとて、変らない。幼い苗の頃から今日まで、己が存在を超えた御方の、愛のまなざしに見守られて生きているのを、感謝と共に、思わずにおれない。