雨にに濡れて家に帰って来た佐伯秀島は着替えながら妻から子どもたちの話を聞いていた。
「源義前の邸には何人の子どもがいるのか?」
と秀島は聞いた。
「そこまでは聞いておりません。仕えに出てまだ十日ほどですしわからないのでは」
妻はこたえた。
「卯月、羽月ここへ」
秀島は大きな声で呼んだ。
父親の顔色を警戒しながら卯月と羽月が姿を現した。
「なに」
男姿の羽月が聞いた。
「源義前のお子は何人おられる」
「えーとね、若君の義守さまと一の姫。一の姫には女童がお付きでその女童は義守さまが好きなようだけど、大人がね話しかけてはいけないときつく言っていたよ」
羽月がこたえた。
「卯月、平清明の邸はどうだ」
「あのね、一の姫、二の姫で生まれたばかりの若君。二の姫には大人の人がついている」
卯月がこたえた。
「羽月、その女童と話をするでないぞ。お前が女だとわかったら大変だ。卯月のほうには童はいないのだな」
「童は、もうすぐ初冠の儀をむかえると言う親戚の子が来ることがある」
卯月はこたえた。
「卯月、その初冠をむかえる者のそばに行くではないぞ。おまえを男だと見破るかもしれない。いいな」
怖い顔をして秀島は卯月を見た。
「わかっている」
「うむ」
男と女を入れ替えて奉公にだしたはいいが気苦労で秀島は疲れてきていた。これは一年二年で終わらせないと体がもたないと感じはじめていた。