ルワンダ中央銀行総裁日記 | 団塊ジュニア!会社員のブログ

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絶版となっていたが、多くの人の要望にこたえ復活した名著である。




内容は独立間も無いアフリカの小国ルワンダ、植民地時代のモノカルチャー(死語ですね)経済のために一国での経済活動が不能、まともな法制度、経済政策、行政機関、金融機関も全く存在しない。 




そんな無い無い尽くしの国に降り立ったのが本書の著者である。 




海外経験豊富な日銀マンが新たに設立されたルワンダ中央銀行総裁に就任し、金融政策を越えて一国の経済を根本から作り上げていくと言うストーリーである。 




回想録ではあるが、登場人物がこれでもかと言うほどに魅力的である。 




独立闘争を主導した大統領、大統領の同志として戦ってきた闘士であるが行政経験が無いままに政府の高官に就任した人々、現地人を馬鹿にして全く能力が無いのに高い俸給を食む旧宗主国出身の官僚、抜け目のない外国商人、急激な変化に戸惑いながらも適応能力を発揮する現地の意欲的な国民、それに対し真摯に向き合う筆者




物語のハイライトの一つとして印象に残ったのは、筆者が大統領に面会し、彼から財政・経済政策の提言を求められると言うシーンである。 もちろん現在の我が国のようなインフラが整った状態では無く、サポートするスタッフも無い、国の現状も良くわからない、政府組織も組織としての体をなしていない、輸送等のインフラも無い、輸出産品はコーヒーしかないと言うトンデモない状態でのことである。 




筆者は他国からやってきた人間である、任期の間、適当に流そうと思えば流すこともできたはずである。 現にそれまでの所謂お雇い外国人はそのようにしてきた。 しかし筆者は違った。 半年かけて大部の政策集を独力でまとめ上げ、大統領に提出した。 そして筆者が大統領に言った言葉がこれだ(言葉は正確では無く、意訳)。 




「決断するのは政治家の仕事です。 我々はそれをもとに政策を実行していくだけです」




テクノクラートとしての誇りがあって言える言葉であり、またガバナンスとマネジメントの違いをはっきりと理解しているからこそ言える言葉です。




この言葉を筆者から受けた大統領はこの提言を受け入れると決断をし、そこから筆者の大車輪の活躍が始まります。 




最近良く聞かれる議論では本来政治家が負うべき責任を現場で働く官僚組織に履き違えて負わせようと言う議論が目に付きます。 本来、官僚組織に求められているのはマネジメントであり、それは与えられて権限の範囲内でベストパフォーマンスを行う、ということでしかありません。 官僚組織に権限を付与するのはガバナンス、要は政治家の役割です。 その政治家は国民からの負託によりその正当性が担保されているのであり、その意味では国民の負託による正当性が付与されていない官僚組織にとっては政治家によって権限が付与されない限り動けないのは当たり前のことなのです。 であるが故に官僚組織が前例主義に陥るのは当然なのです。 なぜなら、少なくとも前例は政治家の承認を経て正当性を付与されたものであるからです。 




このようなことを理解していれば昨今の官僚組織への批判は極めてナンセンスなものにしか聞こえません。 まして政治家が官僚批判をするなどと言うのは自らのガバナンス能力の欠如を大声で振れ回っているに等しく正気の沙汰とは思えません。 結局は自分が責任を取ると言う気概のかけらも無い連中が評論家的に無責任な言辞を弄しているにすぎません。 




話が逸れましたが、テクノクラートとしての誇りとは何か、現場で働く人間として何が必要なのか考えさせられる一冊です。 




厚めの本ではありますが、一気読みです。