田下昌明著「真っ当な日本人の育て方」を読みました。著者は、四十年以上の臨床経験を持つ小児科医です。その豊富な経験から日本らしい子育てのあり方を提言しています。

日本人の育児方法は、敗戦の影響を強く受けて歪んでしまったと著者は書いています。伝統的な育児方が見捨てられ、アメリカから入ってきた無責任でいい加減な育児法がはびこることになりました。いい加減な育児法とは、ジョン・デューイの教育思想と「スポック博士の育児書」です。

母乳で育てるのは良くないとか、抱き癖をつけるのは良くないとか、おんぶするとがに股になるとか、添い寝は悪いとか、親にも人権があるから育児に縛られる必要は無いとか、肉を食べさせろとか、授乳時間が来たら眠っている赤ちゃんを起こして良いとか、生まれたばかりの赤ちゃんは何も感じていないから何をしても良いとか、母子は分離すべきだとか、実に荒っぽい、動物を飼育するような育児論がはびこったのです。これは共産主義的育児法です。

これらの誤った育児理論は、その後の臨床心理学研究(ローレンツ博士やボウルビイ博士の研究)によってすでに否定されています。それなのに、いまだに日本には誤った育児理論が蔓延ってしまっているようです。アメリカ人の子供がどのように育てられようと、それはアメリカ人の勝手ですが、日本の子供たちは日本の風土と文化に即した方法で育てられるべきでしょう。

「スポック博士の育児書」は、アメリカでは1946年に出版されました。日本では1966年です。日本で核家族化が進んでいる頃に、この本がベストセラーになりました。アメリカでは失敗が証明されていたにもかかわらず、日本で翻訳本が出版されたのです。不思議と言うべきでしょう。

モニカ・ルインスキーと淫行したビル・クリントン大統領は、スポック博士の育児法に強い影響を受けていたという説もあります。

著者は、スポック育児論を具体的に批判しています。その詳細は省略しますが、ともかく多くの項目が批判の対象です。スポック育児論は間違いだらけです。それなのに、それが広まり信じられたことが悲劇です。これは今日の毒親問題を生んだ一因でもあるでしょう。

この本は育児論の本なのですが、読んでいるうちに一種の感慨にとらわれました。「本当の保守思想というのは現場に宿っているんだなあ」ということです。この本を読むと、政治家の浮ついた議論が嫌になります。

国会では待機児童問題が繰り返し議論されています。与党も野党も、育児を労働だと前提しているのです。日本の政治は残念ながら共産主義に毒されています。教育も弁護も育児さえ労働にされてしまいました。著者は書いています。

「育児は労働ではありません。育児とは親と子の人生の一部です。人生の一部を人に代わってもらう事はできません。だから、育児をとるか、仕事をとるか、というのは問い自体が誤りであり、答えはないのです」

これぞ保守というものです。

子供に善悪を教えたり、躾をするのに理由をつけて説明するのが昨今の流行のようです。何年か前、「なぜ人を殺してはいけないか」を子供に教えるとき、どう説明するかが話題となっていました。これに便乗して村上龍という小説家が短い小説を書いたりしていましたが、実に馬鹿げた事です。

著者は、明快に左翼的説明依存の方法を否定しています。説明は無意味なのです。つまり、躾は「愛情のある強制」だといいます。

「子供が親に求めていることは、自由だの、権利だの、独立などではありません。無条件、無制限の愛による強い保護なのです」

反日左翼の弁護士に聞かせたい言葉です。これこそ育児の現実なのでしょう。理由付けして説明しても子供は理解できない。子供が成長して頭が良くなったら、理由をでっち上げて殺人を正当化するかも知れません。「悪い事は悪い」、「黙って親の言う事を聞きなさい」、そう言って刷り込みをやれる親こそが親なのです。

読み終えて、この本は育児書である事を越え、「保守とは何か」を説いている良書だと思いました。