本日のコーディネートです。 奥順さんの石下結城紬です。 この着物は私がお勤めを始めた年に買ったお着物です。

ちなみに私には、結城紬には苦い思い出があります。
私が入社して1年ほどしてから(約20年程前)、「 コンプライアンス」なる 表現が社会に段々と浸透していきました。 それまでやりたい放題だった 呉服の販売も、徐々に適正表現・ 適正表示が 重要視されるようになってきました。
昔は結城紬も販売する上では、たとえ石下結城紬であっても 重要無形文化財の3工程( 手紡ぎ真綿糸、 絣くくり、 地機織)を 経たものであるとお客様が錯覚しておかしくない販売がなされていました。 新入社員の私ですらお店の結城紬マニュアルや先輩社員さんのお話から、石下結城紬にも文化財の3工程がなされているものと教わっていましたし、お客様にもそういってお話をしてしまっていました。
今から15年程前に一斉に結城紬の証紙や説明マニュアルや表記がかわり、文化財と一般の結城紬との違いがはっきりと分かりやすくなりました。それまで会社の商品部の一分の人間しか知らなかった情報が、社員やお客様にきちんとわかりやすく公になりました。
私がその時に感じたのは、かつて私の説明を聞いて感動し喜んで結城紬を買って下さったお客様を、知らないとは言え 間違った説明をして販売してしまっていたという自責でした。当時の店長クラスですら、販売時に文化財と石下結城紬の工程の違いを説明する責任性を認識してはいませんでした。
勿論私は石下結城紬を嫌っているわけではありませんし、 糸作りも機織りも機械の動力を使うとはいえ、反物から新品を仕立てれば30万円はします。 石下結城紬の糸には生糸を絡ませることにより 肌触りがサラサラとしていて肌滑りが良く、様々な染色方法を 用いることによりデザイン性の高い、複雑で美しい模様を織り上げることができます。ただ、かつての文化財の3工程が入っているかのような呉服業界の結城紬の販売スタイルは良くなかったなあと 悔やまれるばかりです。💦
また難しい事に、告知義務というのはどこまで求められるのかという問題もあります。もちろん昔の結城紬のような嘘の販売はできませんが、販売において何もかもを言う必要は果たしてあるのかどうかという事。
例えば現在、紬の最高峰の牛首紬は ほとんどが機械織りになっていて(縞柄以外)、織子さんの不足などにより手織りでは生産をまかないきれていません。100万円近い牛首紬の訪問着を前にして、お客様に聞かれてもいないのに「これは機械織りです」とわざわざ言う呉服屋さんがあるのかしら?西陣の帯だって、例え100万円しようともほとんどがジャガードの機械織りだけれど、「 これは機械織りの帯です」などとはお客様にわざわざ言って回らないはず。例えば帯締めにしたって、販売時にわざわざこれは機械組みですなどとは、聞かれなければ言わないだろうし。
機械を使うからこそ、私達が買える値段なのだから。
それにしても不正表示は呉服業界に限らず様々な業界で 問題になってきましたよね。食品の不正表示や、自動車業界のデータ偽装事件など。
一番可哀想なのは不正を知らずにいたお客様達ですが、そんな事とはつゆも知らずに一生懸命に販売をしていた販売員達もまた辛い。
知らないということは、時として無知なる罪になりうるということ。 世の中にはそのようなことがまだまだたくさんあるのかもしれないなぁと思ったりもします。

