Westlaw Japanで、「種苗法上の育成者権に基づく、侵害差止、損害賠償請求を認めた事件」の判例解説が採り上げられています。

 

種苗法上の育成者権に基づく侵害差止、損害賠償を求めた事案で、被告が、真っ向からこの請求の範囲、育成者権の安定性を争い、これらの論点に対し、丁寧に論拠を示した上で請求を認容する判決であり、画期的な判断とのことです。

 

品種登録の場合、植物である以上、実際に育ててみないと特性の評価をできませんが、本件では、品種の菌床が寄託されていてたそうで、これが勝訴の要因とのことです。

 

日本では現物の寄託が要求されておらず、侵害を発見しても、侵害品と登録品種の同一性を立証するのが困難で、権利者がなかなか勝訴できない要因の一つとなっているとのこと。

 

https://www.westlawjapan.com/column-law/2018/181015/

第150号

種苗法上の育成者権に基づく、侵害差止、損害賠償請求を認めた事件~東京地裁平成30年6月8日判決※1~


文献番号 2018WLJCC026

弁護士法人苗村法律事務所 ※2
種苗法研究会メンバー※3
弁護士、ニューヨーク州弁護士
苗村 博子

 

1.はじめに

 種苗法に興味を持っている実務家弁護士としては、「やっと」と握り拳を作りたくなるような判例のコラムを担当させて頂き、光栄である。本件は、数少ない種苗法上の育成者権に基づく侵害差止、損害賠償を求めた事案で、しかも、被告が、真っ向からこの請求の範囲、育成者権の安定性を争ったにもかかわらず、これらの論点に対し、丁寧に論拠を示した上で、これもまたほとんど無かった請求を認容する判決であり、画期的な判断のように思われる。筆者は、単に園芸好き、ロザリアンを標榜するだけで侵害訴訟を担当させていただいたことはないが、それでも、種苗法研究会という会において、育成者権って何?ということを考えてきた者として、この判決にその答えを示してもらったようで、とても嬉しく思っている。読者の皆様には、だいぶ気を持たせてしまったが、それでは、本判決について、その一部ではあるが、論点について考察していこう。


2.訴えに至る経緯

 本件は、JMS 5K-16という登録名称のしいたけの品種(以下、「本件品種」という)についての育成者権(以下、「本件育成者権」という)に関するものである。原告は、当初の育成者権者から本件育成者権を譲り受けた者である。被告は何社かあるが、本件で差止、損害賠償が認められた被告(本コラムではこの被告との紛争のみを取りあげるので、以下、単に「被告」という)は、その子会社から、同子会社が、中国の菌床生産者から、日本の商社を通じて、菌床を購入して栽培するか、国内のしいたけ栽培業者から仕入れた、収穫物であるしいたけを仕入れ、これをパック詰めして小売店に販売してきた。原告は、被告がスーパーマーケットで販売していたしいたけ(以下では、「被告しいたけ」という)が本件育成者権を侵害している可能性が高い旨を内容証明郵便にて通知したところ、被告は、原告に対し、中国での菌床業者の名称、住所とともに、被告しいたけの菌床はL-808等と聞いている旨を回答した。


3.同一性-その判断のための手法

 本件品種と被告しいたけの同一性がまず問題となったが、この点については、本件審理の過程で、種苗管理センターに寄託されていた本件品種、被告しいたけの菌床について、これを用いて裁判所が鑑定を行い、6か月培養し、その後5か月に亘って発生したしいたけの現物を特性表※4 に照らし合わせて比較したようである。その結果、形態的特性、栽培的特性のいずれも類似しているとして、被告しいたけは、本件品種と特性により明確に区別されない品種であるとされた。何が権利範囲かについては、後述するが、植物である以上、実際に育ててみないと特性の評価をできないことから行われた立証方法である。時間はかかるものの、生き物である以上、これは仕方がない。むしろ驚いたのは、本件品種の菌床が、寄託されていたとの記述である。日本では、現物主義をとりながら、現物の寄託は、要求されておらず ※5、侵害を発見しても、侵害品と登録品種の同一性を立証するのが困難であるという問題を引き起こしており、権利者がなかなか勝訴できない要因の一つとなっている※6。知財高裁平成27年6月24日判決※7 では、なめこの登録品種についての育成者権侵害が問題となった。同事件でも、登録品種の種菌株が寄託されていたようで、これを用いて栽培するという本件と同じ立証方法がとられていたが、同種菌からは、収穫物の栽培がうまくいかなかった。被侵害者として控訴をしていた控訴人は、同種菌と同じ種菌を他の業者にも預けていたが、この種菌と侵害品の栽培の結果、これらは特性上、明確に区別できないものと認められた。但しこの種菌が、登録品種のものかが同定できなかったようである。同知財高裁判決では、この、他の業者に預けていたものと、登録品種の種菌が同一のものと立証できれば、侵害が認められた可能性があるとしている。

 

6.最後に

 本判決は、侵害の事実そのものを争っている事案で、育成者権に基づく差止、損害賠償を認めた上で、画期的であるが、同時に、権利を更に確固たるものにするには、様々な立法手当が必要なこともまた示唆しているように思われる。登録原簿の記載と過失推定覆滅の問題からは、審査の際の手順や原簿の記載方法の明確化や、またそれに不服がある場合に、他の知財立法にあるような不服申立制度の導入の必要性が見えてくるし、登録品種の栽培、侵害品の栽培が立証過程で必要とされる点からは、どのようにして登録品種の植物体や、種苗、菌種といったものを保存しておくか、その方法論の検討が考えられるところである。