Westlaw Japanに、特許権が存続期間満了により消滅した後の無効不成立審決取消訴訟の訴えの利益について、北大田村教授の判例評釈が掲載されています。

 

題材は、知財高裁大合議であるピリミジン事件です。

 

判決では、「特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は、特許権消滅後であっても、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない。」という、ある意味当たり前の結論を導いています。弁理士試験でも勉強する話です。

 

ただ、本件は無効審判請求人がダミーであったため、損害賠償を請求されたり、告訴をされたりする可能性がなく、訴えの利益が論点となりました。

 

しかし、ダミーに訴えの利益がないとすると、真の依頼者が再度無効審判請求する必要が出てきますので、妥当な結論を導いたと評価できます。

 

 

https://www.westlawjapan.com/column-law/2018/181001/

1 はじめに

 本コラムが扱うのは、知財高裁大合議部判決平成30.4.13平成28(行ケ)10182等(WestlawJapan文献番号2018WLJPCA04139001)[ピリミジン誘導体]である。同判決は、主として、特許権が存続期間満了により消滅した後に提起された無効不成立審決取消訴訟の取消しの利益の有無と、刊行物に化合物が一般式の形式で記載された場合にこれを進歩性の判断の基礎とし得るのかという二つの論点が争われた。両者は別個独立の論点であり、それぞれ相応の検討を要するものであるので、本コラムではまずは前者の論点を扱うこととする。

 

2 事実

 被告が有する本件特許に対しては、以下のように、平成27年3月31日に本件第2事件原告(個人)※1 により無効審判が請求された後、審判係属中に本件第1事件原告(日本ケミファ株式会社)が審判請求に参加したが、無効不成立審決が下された。それに対して、原告らが提起した審決取消訴訟が知財高裁に係属中の平成29年5月28日に、本件特許権は存続期間が満了したことにより消滅した。そして、いずれの原告も、本件特許権の存続期間中に本件特許権の侵害行為と評価されるような行為は行っておらず、被告から特許権侵害を理由とする損害賠償を請求されたり、告訴をされたりする可能性がないことについては当事者間で争いはない。そのため、審決取消訴訟では、原告らはもはや無効不成立審決の取消訴訟の利益を失っているのではないかということが争点となった。

 

3 判旨

 

 「もっとも、特許権の存続期間が満了し、かつ、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合、例えば、特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等には、もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいなくなったことになるから、特許を無効にすることは意味がないものというべきである。
 したがって、このような場合には、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益も失われるものと解される。」
 「以上によると、平成26年法律第36号による改正前の特許法の下において、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は、特許権消滅後であっても、特許権の存続期間中にされた行為について、何人に対しても、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り、失われることはない。」