日経 XTECHに、弁護士の鮫島先生が、特許の損害賠償額について、寄稿しています。

 

下位平均値に着目すると、日本は欧州(ドイツと英国)と中国、韓国の3地域の3〜7倍程度の損害賠償額が認容されており、決して賠償額は低くないとのことです。

 

記事にもあるように、企業は原告にも、被告にもなり得るのですから、特許権者の損害賠償額を引き上げたところで、企業活動が活発化するとは思えません。

 

それに、特許の損害賠償額が50億円、100億円も認められるのが当たり前になれば、我が国の研究開発が進むかと言えば全く関係ないか、萎縮効果でむしろマイナスになると思います。

 

損害賠償額を引き上げるという、効果のない政策の検討はそろそろ終わりにして、弁護士費用を賄いやすくするなど、訴訟が必要な人にとって使いやすい制度を導入するすべきでしょう。

 

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00434/100500004/

日本の特許訴訟において認容される損害賠償額(認容額)を法改正によって上げていこうという動きがあります。この議論は10年ほど前から「生じては消え」を繰り返しています。この種の議論を聞くにつけ、そのような立法を必要とする背景事実(専門用語では「立法事実」という)が存在するのか、と疑問に思います。

 

最も有力な立法事実は、「我が国における特許訴訟が少ないのは、認容額が小さすぎるから特許権者が我が国で特許取得するインセンティブもないし、ましてや、訴訟を提起するインセンティブもない」という議論です。後段の「訴訟を提起するインセンティブ」が行政目標としてそもそも必要かどうかという論点はおきますが、我が国の「特許訴訟の認容額が小さすぎる」という事実の真否について検証します。

 

日本の損害賠償額は決して低くない

ダントツの米国はともかく、下位平均値に着目すると、日本は欧州(ドイツと英国)と中国、韓国の3地域の3〜7倍程度の損害賠償額が認容されています。もちろん、特許訴訟は国ごとに行われ、認容額も国ごとに算定されることに鑑みると、その国の経済規模〔国内総生産(GDP)〕によってこの値を補正すべきという考え方もあるでしょう。その考え方を採用したとしても、日本のGDPを上回る中国でさえ、下位平均値は日本を明白に下回っています。加えて、日本の下位平均値に対して1/7程度の欧州と韓国でも、GDPにはそこまでの格差がないことからすると、少なくとも国際比較という観点において、日本の損害賠償額は決して低くはないということが検証できます。従って、国際比較という観点からは、特許訴訟の認容額を増額する立法事実は存在しません。

 

第1に、一国の訴訟制度は中小企業のみならず、大企業・外国企業も等しく利用者となります。そのような多岐にわたるユーザーセクターが想定される中で、特定のセクターである中小企業の声に耳を傾けるとしたら、そのようなバイアスをかけるべき合理的な理由を説明する必要があります。(ちなみに、大企業の集まりである日本経済団体連合会(経団連)は損害賠償認容額の増大には慎重な立場をとり続けています。)

第2に、ある当事者は常に特許権者、つまり、原告になるわけではありません。コンペティターに特許を取得されて提訴され、被告になる可能性もあります。被告になる可能性を何ら考慮せずに、専ら原告になるという前提で行われているこの種の議論は、議論手法としては生硬(未熟)であるという批判は免れないように思います。

 

単純に考えれば、「NPEが跋扈(ばっこ)する米国市場」「何かの折にすぐに提訴される中国市場」と比較して、「少々の特許問題があっても簡単には提訴されない日本市場」という評価が成り立つことが悪でしょうか。少なくとも、和と協調を重んじる日本の文化・風土・国民性に添っていることは間違いありません。また、企業のオペレーション効率を害するという観点からは必要悪だとも評価できる訴訟のリスクが少なく、その分ビジネスにリソースを注力できる投資に値する市場環境であるとの評価も成り立ちます。少なくとも、「何でもかんでも特許侵害で提訴される市場を創りたいのか」と聞かれれば大方のビジネスマン(訴訟ユーザー)は「NO」と答えるでしょう。

そういう市場は、特許弁護士など、特定業種に利益を偏らせるだけだと思います。