我が国の知財訴訟では、損害賠償が低すぎると主張する方がいます。本当でしょうか?

 

まずは、一般財団法人知的財産研究所の資料から。p13に日米の損害額が記載されています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/tf_chiizai/dai3/siryou03.pdf

 

我が国の知財訴訟で損害賠償の最高額は、17億8620万円
「1 平成17年(ワ)第26473号 平成22年2月22日 スポーツ用品」です。

 

米国の最高額は、1338億円

「1 セントコア アボット バイオ」です。

 

なお、我が国の裁判で、侵害訴訟が高裁で審理中に特許が無効になった事案ですが、地裁で約84億円の侵害額を認めた判決があります。サミー・アルゼ事件です。

http://news.braina.com/2005/0724/judge_20050724_001____.html

 

我が国の損害賠償は、米国に比べると2ケタ近く低いというのは事実です。

 

では、損害額が高ければ知財訴訟を起こすのか、米国の損害額が妥当なのかというと、違うように思います。

 

例えば、中古車を全損させた、骨とう品を壊してしまったケースでは、同じものを弁償できませんので、民法709条で金銭賠償することになります。

 

知財の場合は、損害賠償を取ることよりも、模倣品やうっかり特許発明の技術的に範囲に属する製品を売ってしまった会社を差止めることが重要です。

 

あるいは自社に有利なライセンス契約を結ぶため、差止請求権を行使することが目的です。

いくら損害賠償を取ったところで、模倣品や競合品に市場を奪われてしまえば、後の祭りです。

 

そのため、水面下でライセンス交渉をしたり、警告状を送ったりという知財活動が、知財訴訟の何倍(おそらく100倍以上)も行われています。

 

米国の特許訴訟では1000億円を超える損害額が認められることもありますが、市場を奪われた後に損害賠償を得ても、事業から撤退することになります。もちろん、大金があれば新規事業への参入はできますが、その事業が成功するかは別問題です。

 

日本でも、まもなく満了する特許権や、既に特許が切れた権利を使って、損害賠償請求することもあります。権利が切れた特許であれば、仮に特許が無効になっても事業に与える影響がないためですが、これは例外的なケースです。

 

ほとんどの会社にとって、過去の損賠賠償を得るよりも、今後の事業展開が重要なはずです。

 

なお、1000億円以上の損害賠償というのは、会社が潰れかねない金額です。

うっかり特許権を侵害してしまった場合にまで、会社が倒産するをほどの損害額を負わせるのが、適切(正義)なのかと言えば、違うと思います。

 

なお、以下のコラムにも、我が国の損害賠償が低すぎるという話が掲載されています。

具体的な事例の一つとして、個人発明家がアップルのiPodを対象に権利行使した例が挙がっています。

https://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=74

 

しかし、クリックホイールのデザインが斬新だから、iPodを買うという人はあまりいなかったはずです。

HDDやメモリを使ったオーディオが便利だからiPodを購入した、製品全体のデザインが斬新だったからiPodを購入したという方がほとんどでしょう。

 

判決の損害賠償3億円というのも、そんなに低額ではないと思います。

3億円というのは、サラリーマンの生涯賃金を超える金額です。生涯賃金3億円の人でも、手取りはもっと少なくなります。

 

この事件は、損害額が3億円では少なく、本当は5億円が妥当だったのかもしれません。しかし、そんなに間違っておらず、結論ありきの判決ではないと思います。

 

弁護士費用が賄える程度の損害額が認められないというのは問題だと思いますが、米国の制度を真似て、我が国に懲罰的損害賠償制度を導入する必要はないでしょう。