教員:さて、前回の続きだ。何故私は、税関検査事件ではなく、岐阜県青少年保護育成条例事件を検閲の回の検討判例に選んだのかわかるかな。
A:それって、前回の最後に言っていた「岐阜県青少年保護育成条例による『包括指定プログラム』がどのような法制度なのか」という話に当然直結しますよね…?
教員:うむうむ。笑
B:同判例によると、

    本条例において、知事は、図書の内容が、著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めるときは、当該図書を有害図書として指定するものとされ(6条1項)、右の指定をしようとするときには、緊急を要する場合を除き、岐阜県青少年保護育成審議会の意見を聴かなければならないとされている(9条)。ただ、有害図書のうち、特に卑わいな姿態若しくは性行為を被写体とした写真又はこれらの写真を掲載する紙面が編集紙面の過半を占めると認められる刊行物については、知事は、右6条1項の指定に代えて、当該写真の内容を、あらかじめ、規則で定めるところにより、指定することができるとされている(6条2項)。これを受けて、岐阜県青少年保護育成条例施行規則2条においては、右の写真の内容について、「一 全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態、二 性交又はこれに類する性行為」と定められ、さらに昭和54年7月1日岐阜県告示第539号により、その具体的内容についてより詳細な指定がされている。このように、本条例6条2項の指定の場合には、個々の図書について同審議会の意見を聴く必要はなく、当該写真が前記告示による指定内容に該当することにより、有害図書として規制されることになる。以上右6条1項又は2項により指定された有害図書については、その販売又は貸付けを業とする者がこれを青少年に販売し、配付し、又は貸し付けること及び自動販売機業者が自動販売機に収納することを禁止され(本条例6条の2第2項、6条の6第1項)、いずれの違反行為についても罰則が定められている(本条例21条2号、5号)。

…ということになります(長いよ、全く)。
教員:汗かき役ありがとう。笑   で、このような包括指定プログラムにつき、税関検査事件の検閲の定義に当てはめると…?
A:個別指定の場合は、販売禁止出版物の指定及びその指定に先立つ審査を行う主体は「岐阜県青少年保護育成審議会」の意見聴取を義務付けられた岐阜県知事ですが、包括指定の場合は同審議会の意見聴取を経ない知事です。その際、岐阜県知事は条例6条2項の「規則」である「岐阜県青少年保護育成条例施行規則2条」及び「昭和54年7月1日岐阜県告示第539号」に拘束されるわけですが、規則策定権者は岐阜県知事でありお手盛りもいいとこです。
   たまたま見つけた法学教室巻末の佐伯先生の行政法の問題によれば、条例の解釈次第では包括指定に処分性を認め、司法審査があり得る訳ですが、司法審査が控えていないことを検閲の要件たる主体=行政権に読み込むのは、検閲の絶対禁止という効果のラディカルさを踏まえても過剰な気がします。 よって、司法審査が控えているかどうかを考慮すべきではありません。
    また、条例上の岐阜県知事が検閲のために設置された行政機関かどうかは、結論の先取りであり考慮することはできません。
   そうすると、包括指定は「行政権」たる岐阜県知事が主体として行うものといえます。
B:また、包括指定の対象は「図書」(6条1項)であり、指定のための審査が「思想内容等の表現物」なのは明らかです。さらに、包括指定のための審査は青少年保護のために「その全部の発表を禁止する目的」で行うものであるのも明らかです。
A:…。これ、本条例の提供する包括指定プログラムは、まさに「対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止する」という検閲そのものじゃないですか…鳥肌が…
教員:だろう?笑 
    私が税関検査事件ではなく岐阜県青少年保護育成条例事件を検閲の回に宿題にした意図は理解できたかな?
A&B:はい!