ノーベル賞経済学賞受賞者で心理学者のダニエル・カーネマン博士が亡くなりました。博士は「行動経済学」という新しい分野を創設し、広い範囲に多大な功績を残されました。

 

行動経済学は「人々が直観や感情によってどのような行動をし、意思決定プロセスにどう影響するのかを考える学問」です。

 

例えば株式市場での投資家心理が株価にどう影響するのかを考えるのも行動経済学の範囲です。大阪大学経済学部教授の大竹文雄先生は行動経済学を医療の分野で応用する考え方を指導されています。

 

行動経済学と医療はどんな関係があるのだ?と不思議に思うかもしれません。私がダニエル・カーネマン博士の名前をはじめて聞いたのは臨床推論を学んだ時が初めてです。その著書「ファスト&スロー」の内容が診断学の臨床推論にも当てはまるのです。

 

島根大学医学部付属病院の 和足孝之先生の記述を抜粋します。

「昨今の認知脳科学の研究によってこれまで言語化が難しかった医師の推論過程が注目されるようになってきた。その主軸となったのがDual process modelと呼ばれる思考方法である。これは2002年にダニエル・カーネマンが応用してノーベル経済学賞の受賞に結びついた認知心理科学的(Thinking, Fast and Slow)の考え方が診断学にも波及したものである。
 診断のプロセスは、System1=直観(感)的思考(Intuitive process)とSystem2=分析的思考(Analytical process)が相補的かつ必要に応じて意識的、無意識に切り替えられながら行われていると考えられている。・・・」

 

病気の診断プロセスにも人間の直観や感情が影響するのだということです。一見違う分野の考え方も、実は奥底でつながっているのだと感じました。学問の面白さはこういうところにあるのだなと感じました。