Blue in Blue fu-minのブログ〈☆嵐&大宮小説☆〉

嵐、特に大野さんに溺れています。
「空へ、望む未来へ」は5人に演じて欲しいなと思って作った絆がテーマのストーリーです。
他に、BL、妄想、ファンタジー、色々あります(大宮メイン♡)
よろしかったらお寄りください☆


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《 翔 》

 

数時間前、逸る思いで登った山道を今は一気に下る。

朝一番の飛行機で香港に飛ばねばならない。それに、フライトの時間までに整えなければならない書類が数種ある。そのために部下に命じて空港内のレストハウスを押さえておいた。時間があれば仮眠をと思っていたが、コテージでの滞在時間が長引いてしまい、そんな余裕は無さそうだ。

 

もちろんそうなることは予想していた。

 

突然飛び込んできた智からのメール。自分が智に関することを最優先してしまうのは分かり切っていたこと。それが後のスケジュールに支障を来すことも同様に。              

それでも、分刻みの仕事の合間を縫ってでも、自分はあの場所に行きたかったのだ。

 

 

徐々に道幅が広くなり、ようやく国道に出た。直後、いきなり左から大型トラックが現れ、左折しようとした翔の車と接触しそうになる。だが、翔は焦ることなくブレーキとアクセルを操作し、国際ライセンスを持つ運転技術で素早くハンドルを切り、その巨体をやり過ごした。

大型トラックは轟音と低いクラクションを響かせながら背後に遠ざかって行った。

 

 

車内にタイヤが擦れたきな臭い匂いが漂う。それでも翔の表情は硬く動かない。ほんの数十分前ににこやかに笑っていたことなど、まるで忘れたかのように。

 

 

高速に乗り、黒のアウディは滑らかに加速していく。元々運転が好きで、仕事でも出来るだけ車で移動することにしている。それがストレスの発散にもなっているのだ。

買い換えたばかりの高性能のドイツ車は。最高の走りをしてくれている。なのに、未だに解けない眉間の皺は、気が急いていることだけが理由ではない。

 

フロントガラスに、和也を見つめる智の穏やかな表情が浮かぶ。彼との関係は智にとって大いにプラスになっているようだ。2年前と比べると、その絵は確実に進化していた。『海』という単純なテーマをあれほどの作品群に仕上げてくるとは想像もしていなかった。

 

と出会って15年、芸術関連、特に絵画に関してはずっと研究して学び続けてきた。だから、描くことは苦手でも、審美眼、鑑賞眼、鑑定眼には大いに自信がある。

 

とにかく、素晴らしかったのだ。

 

(喜ばしい事じゃないか。何をそんなに不機嫌になっている?)

 

いつでも冷静に状況を判断し自己分析をするのが翔の常だ。ビジネスにとってそれがどんなに大切かもよく理解している。だが、その明晰な頭脳を持ってしても、この不快感の原因は掴めない…。

 

(…いや、自分を誤魔化すな。理由は分かっているはずだ)

 

 翔は自嘲気味に口角を上げた。

 

闇に包まれたハイウェイを、アウディは空(くう)を切るように走り続けている。翔は、行き先を示すヘッドライトの光の輪と、その先に映る本当の自分をただ見つめていた。

 

 

智…

 

 

想いは、過去へ…

 

 

3年前、父の会社『櫻井文具』に、主に絵画の展示や売買、それに伴う画材の開発、販売を目的とする『文化芸術部』を設立したのは翔だった。難色を示す古株の役員達を前に、そのときばかりは社長の息子という特権を大いに利用した。

『会社の新しい方向性を目指す』という大義名分を掲げていたが、実は、智のためにという私的な感情がその理由の大半を占めていた。

 

 

 

部の発足後、翔はすぐに画廊経営に着手した。すでに一年前から今を見越して動いていたので移転のために閉店していた櫻井文具S支店の改装も済んでおり、あとはオープンの日時を決定するだけだった。そのオープニングイベントとして、智ともう一人の若い彫刻家との2人による合同展を開催することも、すでに決定事項となっていた。

 

画廊『Gallery Sakura』のオープン前日、翔は展示された智の絵の前に佇んでいた。視線こそ智の描いた『郷愁』とタイトルの付けられた少年の絵に向けられていたが、頭の中では様々な数字が目まぐるしく動いていた。

建物の改装費を含め、オープンまでの諸費用はなんとか部の予算内に納まった。だが、智らの一年間の創作活動に掛かる費用も、全て文化芸術部が負担している。駆け出しの芸術家に金などあるはずもなく、回収の見込みも現時点では殆ど無い。それほど大きな額ではないが確かに現在彼らは部にとって負の資産だ。たとえ、その作品がパーティーに花を添える程度の扱いであったとしても、はたして、無名の彼らがどれほど客の視線を集め、それが今後、新設の『文化芸術部』にいかほどの利益を生み出すのか、翔にとっては大きな賭けだった。

無理を通した分、必ず結果を出さねばならない。勿論勝算はある。だが、成功して当然、失敗した時には、後継者という立場に甘んずること無く、一平社員から積み上げてきた信用と実績を一気に失う事になる。説得に苦労した役員連中は、所詮、お坊ちゃんの気紛れだったと鼻で笑うだろう。

金銭的な損失よりも何よりも、自身のプライドが傷つく事を翔は一番怖れた。胃に穴が開くほどのプレッシャーというものを生まれて初めて知った。

 

 

 

それから3年が経ち、画廊の運営も軌道に乗っているが、あの時のヒリヒリするような焦燥感は今でも忘れられない。

 

なぜか今日は、いつもより鮮明に甦ってくる。

 

 
 

 

ジェット機は滑走路を飛び立った。書類もなんとか間に合い、香港までの約5時間、久しぶりにゆったりとした時間を過ごせる。日頃過密なスケジュールをこなしている翔にとっては多少物足りなさを感じるが、体は嘘をつかない。ビジネスシートに深く座り目を閉じると、疲労した肉体は、活動したがる脳をあっという間に深い眠りに引き込んでいった。

 

数時間前、車窓のスクリーンに映し出されていた映像が、更に過去に遡る。

 

 
 

 

 

智と初めて言葉を交わしたのは、中学2年の春だった。放課後、生徒会室に向かう時、たまたま通りかかった廊下から見えた一枚の絵。美術部室の真ん中に置かれたイーゼルの上、緑の森と青い湖と羽ばたこうとしている数羽の白い鳥。

 

(…綺麗な色だな) 

 

足を止めて見入っていると、死角になっていた教室の隅から男子生徒が現れた。右手にナイフの様なものを持っている。翔に気付かぬまま、数メートルの距離を歩いて絵の前に立つと、サッと右手を大きく振り上げ躊躇い無く振り下ろした。ザッと布の裂ける音がしてキャンバスに大きく亀裂が入る。

 

(…!?)

 

いきなりの信じられない状況に呆気に取られていると、男子生徒は再び右手を上げた。翔は咄嗟に部室に飛び込んだ。

 

「待って! やめて!」

 

男子生徒に背後から飛びつき、右手首をグイと掴んだ。ぺィンティングナイフがカラリと床に落ちる。

 

「え? 何?」

 

 男子生徒は驚いて振り返った。

それが智だった。

 

「なぜ? なぜそんな酷いことをするの?」

「ひどい? 何が?」

 

キョトンとした顔で翔を見上げている。自分より十センチほど低い位置から、たれ目気味の綺麗な黒い瞳が翔の目を捉えた。瞬間、翔の胸が大きく鼓動を打った。

 

(同じクラスの…、大野智?)

 

名前と顔くらいは知っている。だが、こうして近くで顔を合わせたのは初めてだ。

 

「な、何って、どうしてそんな綺麗な絵を破くの?」

 

慌てて眼を逸らし亀裂の入った絵に目をやる。鼓動は治まらない。

 

「じっ、自分で描いたの?」

「うん、そうだけど。…手を、放してくれる?」

「あ、ああ、ごめん」

 

慌てて掴んでいた手を放した。

 

「すごい握力。ほら、跡、付いたよ」

 

智はおかしそうに微笑うと、赤い指の跡が付いた右の手首を翔に見せ、左手で擦りながら腰を屈めて落ちたナイフに手を伸ばした。その流れるような滑らかな一連の動きと、両手の造形の美しさ。

翔の鼓動は騒ぎ続ける。

 

 

「まじ、ごめん。でもなんで? もったいないよ」

 
上ずった声で尋ねる。

 

「だいぶ前のだし、描きかけで放っといたから絵具が割れてきちゃてさ。キャンバス張り替えようと思って」

「へえ、そんな事できるの?」

「うん。僕だって大事な絵を簡単に破いたりはしないよ。えっと、櫻井翔くんだよね、クラス委員の。初めてしゃべったね」

 

自分の名を知ってくれていたことに、収まりかけた胸がまた波打つ。

 

「そう言えば、そうだね。君、美術部なんだ」

「うん。今度、コンクールがあるから、新しい絵を描けって言われてんだけど、何か、ピンとこなくて。気分転換」

 

智は校庭側の窓に歩いて行った。その細い背中から目が離せない。

 

「あの、夕焼けを描こうって思ってんだけどさ」

 

くるりと振り向く。

 

 

「何かいいアイディアない? 櫻井くんって確か、すっごい頭が良かったよね? 一緒に考えてよ」

 

耳に心地よい柔らかい声が自分の名を呼ぶ。

翔は片手で額を拭った。何を焦っているのだろう。こんな汗まで掻いて。

 

そんな翔に気付くことなく、智は手に持ったペインティングナイフを夕陽に翳してふふっと小さく笑った。

 

 

「あんな色、どうやったら出せるんだろう」

 

眩し気に目を細めて夕日を見つめる横顔。

 

「今日は特別キレイだな...」

 
翔は、オレンジ色の夕日を浴びて柔らかく微笑む智から目を離す事が出来なかった。

 

 

 

 

出会った日のすべてがまるで昨日のことのように脳裏によみがえる。

まるで、一枚の絵のように。

 

 

(そうさ、俺はあの瞬間から智のことを…)

 
 
朝の光は閉じられたシェード越しに翔の寝顔に淡い光を投げかける。
 
 
眉間の皺もようやく解かれ、翔は束の間の休息の中にその身を深く沈めて行った。
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
続く。
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