心の声をまさか声に出して言ってしまっていたなんて。
恥ずかしすぎて、しばらく私は顔の火照りがとれなかった。
そんな私のことをゲームしながらカズさんは、いつまでいつまでもニヤニヤしてチラ見する。
「もぉ!そんなに見ないでよ。」
『かわいいんだもん、だって。』
「そんなに見られてたら、恥ずかしくてご飯の支度できないよ。」
『それ、困るわ。楽しみにしてんだから、こう見えて。』
そう言うと素直にこっちを見るのをやめたカズさん。
代わりに今度は、私がその後ろ姿をチラチラ見ながらご飯支度をした。
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夕食が出来上がりテーブルに運び始めた頃、カズさんの携帯が鳴った。
しばらく液晶を眺めていたが、なかなか鳴り止まないからかカズさんはその電話に出た。
しかしカズさんは一言も喋らずジッと携帯を耳に当てている。
電話の相手が、何かを話しかけているのが漏れ聞こえる。
暫くそれを聞いていたカズさんは、堪え切れなくなったように静かに笑うと
『どしたんすか、珍しい。なんかありました?』
と聞いた。
『いや。……あ、まぁ。……えぇ。……それでなんすか。……はぁ。……ふーーん。……いやまぁ、分かりました。……じゃ、またあとで。……はい、はーい。』
電話を切ったカズさんは言った。
『アコ、わるい。今日ちょっと行かなきゃなんなくなった。
どーしてもって…。滅多にないのよ、こんなこと。あの人がこんなこと言うの。放っとけねーのよ、だから。』
電話の感じからそうなる予感はしていた。精一杯の平静を装って
「そーなんだ。分かった。」
と私は答えた。
『アコ、本当ごめん。ごはん、オカズだけ食べてくから。』
カズさんはテーブルに置いてあったブリ照りと野菜炒めと酢の物を『旨い。うん、旨い』と言いながらサササッと食べると、
『アコ、本当にごめんな。ちゃんと連絡するから。』
そう言って唇にチュッとキスをして、私のお見送りを待たずに玄関へ行き出てってしまった。
1人リビングへ取り残された私。
あんなにほんわかと幸せだった気持ちは一気にどこかへ吹っ飛んでしまい、今は淋しさと切なさとなんとも言えないモヤモヤな気持ちでイッパイになっていた。
なんなんだろう、このモヤモヤわ。
ビールを1缶一気に飲んだ私は紙とペンを持って、ローテーブルの前に座った。
気持ちがモヤモヤした時は、その気持ちを紙に書き出していくのが1番。
文字に残すことで何度も読み返すことができて、自分の気持ちを整理することができる。私の癖のようなもの。
自分の心の中に浮かんだ言葉を次々書き出していった。
どこにいるの。どこで誰と何してる。私は1人で淋しくここにいるよ。
カズさんが好き過ぎてどうしようもないよ。会いたいよ。淋しいよ。
私は一体何にモヤモヤしてるの。
書いては読み返し、読み返しては思ったことをまた書く。書きながら涙が溢れる。
そうしているうちに、私は何にモヤモヤしていたのかが分かってきた。
私がモヤモヤしていたのは、
《カズさんが相談もなしに行くことを決めてしまったこと》。だったらしい。
「一緒に過ごそう」って約束して、私は私の時間をカズさんに預け、カズさんはカズさんの時間を私に預けた。つまりお互いがお互いの時間を預かっている時。
だから、例え気持ちの中では「行く」って決めていたとしても、きちんと私に相談してから決めて欲しかった。
これってワガママなのかな…わたしの。
そこまで書いた頃、キッチンには既に3つの空き缶が置いてあり、テーブルには飲みかけのビールがあった。
あ、ちょっと飲みすぎた…。
瞼が重い…。眠い。